2024年05月03日 1820号

【陸自部隊、公式Xで「大東亜戦争」/隊内教育に「商業右翼」の影響か/アジア侵略美化は戦争準備】

 陸上自衛隊の部隊が公式SNSへの投稿に「大東亜戦争」との表現を使い、物議を醸している。事件の背景には、歪んだ歴史認識にもとづく自国賛美思想を注入する隊内教育の問題がある。安倍応援団のネトウヨ文化人が外部講師として頻繁に招かれているのだ。

どうみても戦争賛美

 問題の投稿を行ったのは、陸上自衛隊の第32普通科連隊(さいたま市)。硫黄島で行われた日米戦没者合同慰霊追悼顕彰式に隊員が参加した報告を公式X(旧ツイッター)に上げたのだが(4/5)、その中に「大東亜戦争最大の激戦地」などの表現があった。

 この投稿が朝日新聞などで問題視されると、同連隊は「大東亜戦争」の文言を削除。木原稔防衛相は9日、「激戦地だった状況を表現するために当時の呼称を用いた。その他の意図はなかった」と釈明した。削除については「現在、一般に政府として公文書で使用していない用語であること」を踏まえた修正だと述べた。

 一連の対応に右派メディアや右派文化人は激しく反発した。産経新聞は「言葉狩りを朝日は恥じよ」(4/10主張)といった論陣を展開。大東亜戦争という用語を使うことは「何の問題もなく戦争自体の賛美でもない」と強弁した。

 いやいや戦争賛美でしょ。大東亜戦争という呼称は、米英両国に対する戦争を開始した直後の1941年12月10日、当時の大本営政府連絡会議が決定した。「大東亜新秩序建設を目的とする戦争なることを意味する」(内閣情報局)との理由からだった。ネーミング自体に日本のアジア侵略を正当化する意図が込められているということだ。

 戦後、GHQ(連合国軍総司令部)は軍国主義を連想させるものとして大東亜戦争という呼称を公文書で使用することを禁じた。その指令はすでに失効しているが、いまあえて大東亜戦争と呼ぶことは「あの戦争は正しかった。アジア解放の聖戦だった」と主張することを意味している。

 それを自衛隊が使ったのだから、旧日本軍の侵略行為を美化していると批判されて当然だろう。

ネトウヨ講師の浸透

 そもそも、硫黄島の日米追悼式典には軍事同盟としての結束をアピールする狙いがある。その報告文の中で対米戦争を正当化する言葉を用いるなんて、自衛隊的にも「不適切」な行為であるはずだ。ところが、この部隊は平気で大東亜戦争と書いた。「近衛兵」を気取る(写真参照)ぐらいだから、隊内で普通に使われているのだろう。



 関連して気になることがある。自衛隊内部で近年まん延している「偏向教育」のことだ。昨年6月、防衛大学校の等松春夫教授が実名で告発し、波紋を広げた。等松教授によれば、「リーダーシップ教育」と称して旧日本軍の将軍や提督を持ち出し、彼らがいかに勇敢に戦って玉砕したか、といった精神論のような話ばかりをしている自衛官教官がいるのだという。

 さらに「教官が政治的に偏った思想の論者らを自分の授業の枠内で招き、講演をさせる」行為がまかり通っていると指摘する(2023年8月7日付毎日新聞のインタビュー)。この種の「商業右翼」を講師として学外から招く悪習が、防衛大学だけではなく陸海空の幹部学校にまで見られるというのである。

 名前が上った「商業右翼」の顔ぶれは以下のとおり。「大東亜戦争肯定論」を唱えたヘンリー・ストークス(元ニューヨーク・タイムズ東京支局長)、韓国や中国へのヘイト本を量産している竹田恒泰(明治天皇の玄孫が売りの作家)、竹田の弟子筋にあたるタレントの吉木誉絵、米軍基地建設に反対する沖縄の人びとを「テロリスト」呼ばわりした井上和彦(軍事漫談家を自称)等々。

 おぞましい限りのラインナップというほかない。こうしたネトウヨ講師がふりまく歴史観が自衛隊内に浸透していたとすれば、「大東亜戦争の何が悪い」ということになる。今回の投稿は起こるべくして起きた事態なのだ。

ヘイト思想の軍隊

 海上自衛隊の艦隊司令官が幹部候補生を引き連れ靖国神社に集団参拝していたことが明らかになったばかりだが、この研修プログラムには同神社付属の戦争博物館「遊就館」の見学が含まれていた。近代日本が行った対外戦争や植民地支配をすべて正しいとする歴史観を刷り込もうとする狙いがあることは明らかだ。

 このような隊内教育が中国との戦争、すなわち台湾有事を想定した戦争準備の一環であることは言うまでもない。ネトウヨ流の他民族蔑視思想の影響を受け、偏狭なナショナリズムに凝り固まった自衛隊員が琉球弧の島々に出動する―。歴史の愚行をくり返す事態を許してはならない。(M)
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