2024年05月03日 1820号

【読書室 ノーモア原発公害 最高裁判決と国の責任を問う/吉村良一・寺西俊一・関礼子編著 旬報社 1700円(税込1870円)/6・17最高裁判決の全面批判】

 福島第一原発事故に関し「国に責任はない」とした2022年6月17日の最高裁第2小法廷判決(多数意見)は、岸田政権が進める原発回帰(最大限活用)政策にお墨付きを与えるとともに、下級審による相次ぐ「コピペ判決」という恥ずべき事態を引き起こしている。こうした司法の現状に危機感を持った研究者や弁護士・ジャーナリストなどが昨年末「ノーモア原発公害市民連絡会」を結成した。

 本書は、その市民連に参加した人たちが6・17最高裁判決の問題点をはじめ政府の福島復興政策、原子力安全規制、岸田政権による原発回帰政策(GX推進法)の批判、司法を歪める最高裁と巨大法律事務所の関係などについて書いたものだ。

 6・17最高裁判決については▽原発事故を「万が一にも起こさない」とする過去の最高裁判例を無視▽上告を受理したのに法令解釈について判断せず▽民事訴訟法321条1項に違反して各高裁で確定した事実を覆した―など多面的にその問題点が指摘されている。

 樋口英明元判事は、1972年7月の四日市ぜんそく訴訟での「人間の生命、身体に危険のあることを知りうる汚染物質の排出については、企業は経済性を度外視して、世界最高の技術、知識を動員して防止措置を講ずべきであり、そのような措置を怠れば過失は免れない」との判決を引き、最高裁の退廃を指弾する。

 最高裁判決から2年。6月16、17日には原発関連の裁判を闘う原告、支援者、研究者などが一堂に会してシンポジウムを開催し、最高裁への要請行動やヒューマンチェーンに取り組む。本書の著者たちも講師として登壇する。ぜひ一読してほしい本だ。  (U)
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