2024年05月17日 1821号

【民間労働者にも「身辺調査」/経済秘密保護法案は何を狙う/情報統制で「死の商人」国家へ】

 衆院を通過した経済安保秘密保護法案が参院で審議中だ。この法案は特定秘密保護法の拡大版で、政府が経済安全保障上重要とした情報を秘密指定し、その情報にアクセスできる人物を「適性評価」で選別するというもの。明らかに戦争国家づくりの一環だ。

「秘密」の範囲を拡大

 法案の正式名称は「重要経済安保情報の保護及び活用に関する法律案」。経済基盤に関する重要な情報を国が一元的に管理することによって「我が国及び国民の安全の確保」を図ることを主目的としている。構成をみていこう。

(1)保護の対象とする重要経済安保情報の指定

 政府が保有するインフラや重要物資の供給網に関する非公開情報のうち、その漏えいが日本の安全保障に支障を与えるおそれがあり、秘匿することが必要であるものを重要経済安保情報として指定する。詳細は法案成立後に閣議決定する運用基準で定める。

(2)取扱者への「適性評価」を前提とした重要経済安保情報の提供

 重要経済安保情報に接する必要がある公務員や民間事業者らに対しては、政府が調査を実施し信頼性を確認した上で情報を提供する。本人の同意を得た上で、国の行政機関が▽重要経済基盤毀損活動との関係に関する事項▽犯罪や懲戒の経歴▽情報の取扱いにかかる違法行為の経歴▽薬物乱用▽精神疾患▽飲酒の節度▽信用状態その他経済的な状況―などを調査する。

 重要経済基盤毀損活動とは、重要経済安保情報を入手するための活動で、▽外国の利益を図る目的で行われ、国家・国民の安全を著しく害するおそれのあるもの▽政治上の主義主張を強要したり、社会に不安や恐怖を与える目的で重要経済基盤に支障を生じさせるためのもの―を指す。これに関係する事項には、家族や同居人の生年月日や国籍などが含まれる。

(3)罰則

 情報漏えいには5年以下の拘禁刑などを科す(未遂も罰せられる)。行為を共謀したり、教唆・煽動した者も処罰対象となる。

民主主義の破壊招く

 2013年に制定された特定秘密保護法は「外交、防衛、テロ、スパイ活動」の4分野に関する機密情報の保全を目的とする。今回の法案は適用範囲を経済分野にまで広げており、民間企業の労働者や研究者らを幅広く適性評価の対象としている。市民の知る権利やプライバシー権が侵害される懸念も飛躍的に拡大するということだ。

 特に問題なのは、適性評価制度の導入である。「秘密」を扱う人は、政治的な傾向、精神疾患などの病歴、経済状況などを含む信用情報といったセンシティブな情報を根こそぎ調べ上げられる。家族や同居人に関する情報も家族等本人の同意なく調査されるのだ。

 調査は本人同意を前提としているが、調査拒否者に対する不利益な取り扱いを止める規定はない。しかも、本人や上司などから提出された調査票に疑問が生じれば、警察を含む公的機関や医療機関などへの照会なども行うとしている。

 そもそも、この法案が保全対象とする重要経済安保情報には明確な定義がない。政府の恣意的な判断で秘密の範囲がいくらでも広がりかねないということだ。「何が秘密か。それは秘密です」では、市民は判断材料を奪われてしまう。特定秘密保護法と同じく、民主主義の根幹を揺るがす悪法といえよう。

軍事的連携に必須

 岸田文雄首相は法案の趣旨説明で「同盟国の米国や同志国との一層の連携、協力にも資するものだ」と語った。これこそが法制定を急ぐ理由である。米国や諸外国との軍事的連携(武器の共同開発や武器輸出の促進を含む)を強化するために必要なのだ。

 名古屋経済大の坂本雅子名誉教授は法案の狙いについて、中国への重要な技術流出を防ぎ、中国を排除したサプライチェーン(供給網)の構築を狙う米国戦略に沿ったものだと指摘する。適性評価は「親中派」の排除のために使われるというわけだ。

 このことは対中国を口実として、戦争国家路線に批判的な動きをつぶしていくことを意味する。海渡雄一弁護士は、政治的な見解や政府への忠誠度、労働組合での活動歴といった、あらゆる個人情報が収集される恐れがあり、「全国民が調査可能な監視システムが構築されることを意味する」と強調する。

 このように、経済安保秘密保護法案は戦争国家づくりの一環である。民主主義を圧殺するものだ。そんな法案が自民党裏金問題のどさくさに紛れて衆議院を通過した(委員会での審議はわずか約25時間)。法案の危険性をアピールし、制定阻止の運動を広げていかねばならない。

 (M)

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