2024年05月24日 1822号

【ギャンブル依存症を増やす気か/大阪カジノ計画は愚の骨頂/「命よりカネ」の維新は去れ】

 5月14日から20日までは「ギャンブル等依存症問題啓発週間」ということで、本紙も協力することにしよう。ギャンブル依存症は人生を滅茶苦茶にする病気である。その被害がすでに深刻な日本で、税金を使ってカジノを誘致するなんて天下の愚行というほかない。

「水原事件」の衝撃

 米大リーグ・ドジャースの大谷翔平選手の元通訳・水原一平容疑者が銀行詐欺などの罪で起訴された。水原元通訳は司法取引に合意し、裁判で起訴内容を認める方針だという。

 起訴状によると、水原元通訳は違法賭博の借金返済に充てるため、大谷選手の銀行口座から約1700万ドル(約26億4000万円)を賭博の胴元側に不正に送金したとされる。事件発覚後、彼は自分がギャンブル依存症であることをドジャースの選手らに告白し、謝罪していた。

 ギャンブル依存症は誰でもなり得る精神疾患である。医学的には「ギャンブル障害」と呼ばれ、世界保健機関(WHO)は、自らの社会的、職業的価値を損なうほど生活を支配する障害と定義している。

 ギャンブル障害は、経済的な困窮、家族や友人関係の破壊、窃盗や横領などの犯罪、自殺企図など、重大な個人的・社会的問題を引き起こす。水原元通訳の行為がまさにそうだ。「ギャンブル依存症問題を考える会」の田中紀子代表は「必要なのはバッシングではなく、社会の理解と適切な規制だ」と訴える。

 大谷選手を巻き込んだ賭博事件は日本の私たちにとって対岸の火事ではない。厚生労働省が2021年8月に発表した実態調査によると、ギャンブル依存が疑われる人(過去1年間)は成人の2・2%(男性3・7%、女性0・7%)程度いた。人口で推計すると約196万人になる。

 生涯に渡ってだと3・6%(約320万人)になるとのデータもある。この割合は諸外国に比べ突出して高い(フランス1・2%、ドイツ0・2%、イタリア0・4%、カナダ0・9%など)。日本はすでに世界一といっていいほどのギャンブル依存大国なのだ。

標的は日本人客

 その日本にカジノという巨大賭博場が作られようとしている。安倍政権が「成長戦略」の柱として解禁したからで、昨年4月、大阪府と市が申請したIR(統合型リゾート)整備計画が国の認定を受けた。

 大阪IR計画は、大阪湾の埋立地・夢洲に、カジノ、国際会議場、ホテルなどを併設する巨大観光施設を建設するというもの。諸外国のカジノは事業者がインフラ整備の費用をまかなうが、大阪カジノは土地や建物の整備に多額の税金が投入される。業者からすれば実においしい話だ。

 IR事業全体の年間売上見込み額は約5200億円。そのうち約4200億円をカジノ事業が占める。ターゲットは外国人観光客ではない。大阪府・市の計画では、年間来場者2000万人のうち7割の1400万人を日本人客が占めると見込んでいる。

 大阪IRの事業者ですら入場者の約2%がギャンブル依存症になる可能性を認めている。来場者数が見込み通りならば、単純計算で20万人以上のギャンブル依存症患者が生まれることになる。まさに人生転落促進装置というほかない。

はじまりは橋下暴言

 大阪府の吉村洋文知事は「依存症対策に正面から取り組む。実効性のある対策をしていく」と豪語していたが、その実態は〈入場回数の制限(7日間で3回、28日で10日)〉〈日本人客は入場料6000円〉〈本人や家族などからの申し出による利用制限〉というユルユルなものだ。

 カジノは24時間営業なので、夜中の0時に入り同日の午後11時59分に退出するパターンを1日おきに3回繰り返せば、ほぼ1週間入り浸ることができる。そもそも、月10日も通う時点でギャンブル依存症を疑わせる状態だといえる。

 ならば、入場規制をもっと厳しくすればよいのかというと、維新的にはのめない案である。カジノ経営が成り立たず、事業者に逃げられてしまう。結局、人びとの健康や命よりもカネが大事というわけだ。

   *  *  *

 「ちっちゃい頃からギャンブルを積み重ね、勝負師にならないと世界に勝てない。先進国こそギャンブルが必要で国民全員を勝負師にする必要がある」。維新創業者の橋下徹が大阪府知事時代にカジノ誘致をぶち上げた際の発言である。

 このような暴言がまかりとおり、維新が選挙で連勝を重ねた大阪の状況はどうかしていた。いま一度よく考えてほしい。人びとの不幸の上に成り立つカジノの収益をあてにした自治体運営など間違っている。大阪に、日本のどこにもカジノは要らない。  (M)

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