2024年05月24日 1822号

【読書室/大阪朝鮮学校無償化・補助金裁判 「あたりまえの権利」を求めて /大阪朝鮮学園高校無償化・補助金裁判記録集刊行委員会編 現代人文社 3000円(税込3300円)/社会を立て直す道を展望する】

 本書は、2012年から19年にかけて闘われた、朝鮮学校に対する大阪府・市の補助金交付停止と日本政府の「高校無償化」政策からの排除の撤回を求める二つの裁判闘争の記録である。

 「朝鮮高級学校無償化を求める連絡会・大阪」を中心に運動に取り組んだ朝鮮学校関係者・弁護団・支援者が、当時の思いや一連の裁判闘争で唯一勝訴した大阪地裁判決の意義を語る。

 大阪訴訟弁護団長の丹羽雅雄さんはあとがきで、裁判の結果は、民族教育を敵視、弾圧し続けてきた日本政府の下、司法が行政の意向を忖度(そんたく)し、その独立性を自ら放棄したものと強調。植民地主義の清算を拒む歪んだ歴史認識の存在により民主主義や人権の規範が崩壊しつつある日本社会の反映であり、「この裁判において本当の意味で敗れたのは、日本社会の側であるとさえ言える」と断じる。

 一方、実は「あたりまえの権利」である民族教育権を正面から認め、全面勝訴した大阪地裁の無償化判決内容を一里塚とし、民族教育に対する認識を正すことで内なる差別意識や排外主義を自覚、克服し、社会を立て直す道を展望する希望にも触れている。

 関係者の手記で、地裁判決当時2年生だった大阪朝鮮高級学校卒業生が記した、あたりまえの権利が認められたと感じた瞬間の喜びは誰の胸をも打つ。さらに、その後も続く無償化除外への情けなさと憤り、朝鮮学校に通いルーツを学んだ経験が在日朝鮮人としての誇りを胸に生きていく自分を作っていること、次の世代の子どもたちも誇りを持って笑顔で堂々と生きられる世の中のために声を上げ続けていく決意を率直な言葉でつづっている。 (M)
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