2024年05月31日 1823号

【政治資金規正法の自民案/抜け穴だらけで実効性なし/企業・団体献金の廃止が第一だ】

 政治資金規正法の改正をめぐる国会審議が始まった。自民党は独自の「改正案」を提出したものの、「抜け穴だらけ」と批判され、連立政権を組む公明党から共同提出を拒否される始末。最大の問題点は、企業・団体献金の禁止に一切触れていないことにある。

異例の単独提出

 自民党が政治資金規正法改正案を決定し、党単独で国会に提出した。岸田文雄首相は「実効性のある再発防止策になった」と強調。森山裕・自民党総務会長は「自民党が変わったと感じていただけるのではないか」と自画自賛した。

 寝言は寝て言えというほかない。裏金の温床となった政治資金パーティーについて、自民案はパーティー券購入者の公開基準を現行の「20万円超」から「10万円超」に引き下げるとしている。連立相手の公明党は「5万円超」を提示したが、自民は歩み寄らなかった。

 政党から政治家個人に支出される政策活動費についてはどうか。自民案は大まかな項目ごとに50万円超の支出を公表するとしているのみ。個別の日時や支出先は明らかにされず、領収書の添付も不要だ。これでは支出の実態が見えない「ブラックボックス」であることに変わりはない。

 野党各党が求める「企業・団体献金の禁止」には完全無視を決め込んだ。自民の政治刷新本部作業チーム座長を務める鈴木馨祐(けいすけ)衆院議員は「再発防止の話と、自民党の力をそぎたいという政局的な話がごっちゃになっている」と発言し(5/12NHK「日曜討論」)、激しい批判を浴びた。

 鈴木は別のテレビ番組(5/13)でも「自民党の収支構造に直結するものだけがピックアップされている」と不満をあらわにしている。企業・団体献金が自民の重要な資金源であり、「力の源泉」であることを自ら認めたといえよう。

カネで政策を買う

 政府・自民党が死守したい企業・団体献金。その本質は「カネで政策を買う」事実上のワイロにほかならない。その昔、石原俊・経済同友会代表幹事(当時)はこう言った。「企業が議員に何のためにカネをだすのか。投資に対するリターン、株主に対する収益を確保するのが企業だから、企業が政治にカネを出せば必ず見返りを期待する」。この言葉が示すように、自民党は大口献金をしてくれる大企業を優遇する政策を実行し、持ちつ持たれつの関係を築いてきた。

 自民党本部が政治資金の受け皿団体として作っている「国民政治協会」の2022年分収支報告書を見ると、総収入の8割を超える約24億5000万円が企業・団体からの献金だ。業界団体の最高額は日本自動車工業会の7800万円。企業単体だとトヨタ自動車が5000万円でトップだ(グループ会社のダイハツやデンソーなどを含めると、献金額は1億1000万円にのぼる)。日産自動車(3700万円)やホンダ(2500万円)も高額な献金を行った。

 その見返りはどうだったか。岸田政権は日本自動車工業会が要望していた「エコカー減税の延長」を決定した。トヨタ自動車に対しても、電気自動車向け電池の開発・生産計画に約1200億円の補助金を出すことを決めている。

 軍需企業も大口献金の常連だ。献金額が3300万円の三菱重工業が受注した兵器類は、戦車や護衛艦、敵基地攻撃能力に使用される国産長射程ミサイルの開発などで、13〜23年度の契約額は計4兆2000億円にのぼる。軍事費のさらなる増額検討を提起した防衛省の「有識者会議」の委員には同社の宮永俊一会長が名を連ねている。

 岸田政権が再推進に舵を切った原発関連では日立製作所が3500万円を献金。政府がゴリ押しするマイナンバー制度でも関連事業を受注した大企業5社(日立製作所、富士通、日本電気など)が9年間で合計7億円を献金した。

安倍時代に倍増

 露骨な利益誘導の実態があることから企業・団体献金に対する世論の風当たりは強く、汚職事件の続発や自民党の政権転落を受け、経団連が献金のあっせんを取りやめたこともあった。ところが、2012年末に第二次安倍政権が発足すると、経団連は献金呼びかけを再開。自民党への献金額はほぼ倍増した。

 かくして自民党政権は大企業の儲け本位の政策を実行してきた。上場企業が過去最高の利益を上げる一方で、多くの人びとが生活苦にあえぎ、さらに搾り取られる事態が作り出されてきたのである。

 朝日新聞が郵送で行った世論調査(2月末〜4月上旬)によると、企業・団体献金を「認めないほうがよい」との意見は79%に上っている。民意に背を向ける岸田政権・自民党を徹底的に追い詰める時だ。(M)

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