2024年06月07日 1824号

【ネタニヤフ首相らの逮捕状請求/国際刑事裁検察官 戦争犯罪問う】

 国際刑事裁判所(ICC)の検察官が5月20日、イスラエルのネタニヤフ首相ら5人に逮捕状を請求した。4日後には、国際司法裁判所(ICJ)が、イスラエルにラファ攻撃を停止するよう暫定措置命令を出した。イスラエルの建国宣言(1948年)以来続いている国際法違反の犯罪を今度こそ裁かなければならない。世界の民衆の闘いが国際法を守らせる執行力となる。

法の平等性

 「もし私たちが法律を平等に適用する意思を示さなければ、私たちは法律が崩壊する条件をつくり出すことになる」―ICCのカリム・カーン主任検察官(英国の弁護士)は逮捕状請求の意義をそう語った。

 カーン検察官は、昨年10月7日以降の事態について、ハマス(イスラム抵抗運動)のガザ地区の指導者ら3人とともに、イスラエルのネタニヤフ首相、ガラント国防相に対し、ガザ市民の飢餓による絶滅、民間人に対する意図的な攻撃の指示などの「戦争犯罪、人道に対する犯罪の刑事責任があると信じる合理的根拠がある」と表明した。要するに容疑が固まったから逮捕状を請求したということだ。

 国際法を平等に適用する意味は、これまで一度たりとも国際法違反を咎(とが)められていないイスラエルの政治指導者に対しまず逮捕状を請求することで示された。イスラエルの国際法違反は「建国」以来76年続く。2002年のICC設立後もイスラエルの犯罪を裁くことはなかった。

 ICJの暫定措置命令も3度目だ。1月、3月の命令後もイスラエルは攻撃を続けている。法的拘束力を持つICJ命令を無視するイスラエルは法の破壊者として糾弾されねばならない。ラファ攻撃を直ちに停止することが法の平等性を守ることにもなる。

最も重大な犯罪

 ICJは国連加盟国間の紛争を扱う国連の主要機関として発足時から設置された。ICCは最も重大な犯罪(ジェノサイド罪、人道に対する罪、戦争犯罪)を犯した個人の刑事責任を問う。1998年の国際条約「ローマ規定」が設立根拠であり、国連の機関ではない。02年に条約が発効、現在、締約国は124か国。イスラエルは未加盟だが、パレスチナは15年に加盟した。これによりICCの管轄権(権限の及ぶ範囲)はパレスチナに及び、重大な国際犯罪を裁くことができるようになった。

 18年、パレスチナ政府は14年6月からのイスラエルの犯罪の捜査をICCに付託(審査をゆだねること)した。だが、21年、それまで捜査にあたった検察官が任期切れとなり、捜査は停滞。「パレスチナ問題は検察の樽の底に沈んだ」といわれた(5/20Mondoweiss)。

 後任のカリム・カーンは、ICC非加盟国であるウクライナ(管轄権を受諾)の事態を積極的に捜査し、プ―チン大統領への逮捕状を異例の速さで請求したが、パレスチナ問題への関心は低かった。ウクライナ情報を米国に依存するカーンは、見返りにパレスチナ問題は時間をかけたと言われる。

 そんなカーンを後押ししたのは、目の前で進行する事態の深刻さ、世界的な抗議行動の高まりであった。カーンは、国際人道法などの専門家チームをつくり数か月かけて、逮捕状請求時の反発に備えていた。

「ICCに制裁」

 逮捕状請求にただちに反応したのはイスラエルやハマスだけではなかった。米国のバイデン大統領は「とんでもないことだ。イスラエルとハマスは同じではない」と激高した。ブリンケン国務長官も「恥ずべきことだ。ICCに対する制裁を検討する」と語っている。米議会には既に2本の制裁法案が提出されているという(5/22BBC)。「自国の生存権を守る平和国家と、大量虐殺を行う過激派テロ集団を同列視している」というのが法案に賛成する議員の言い分だ。

 ガザでのジェノサイドは平和国家がすることなのか。民間人を殺害し、人質にしたハマスと同様に、国際法の裁きを受けるのは当然だ。

   *  *  *

 日本政府は逮捕状請求に「重大な関心を持って注視する」(上川陽子外相)と言うだけだ。ウクライナの時は、すぐさまICCへ締約国として付託した。パレスチナについてもICCへ付託すべきだ。今年3月11日、ICC所長に赤根智子判事が選出された際、「ICCの発展を支援し、国際社会における法の支配の推進に積極的に貢献します」と外相談話を出した。イスラエルに法、命令を守らせろ、ICC支援に徹せよと政府に迫ろう。



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