2024年06月07日 1824号

【労働者保護の根本的破壊へ/「労使合意」による適用除外を狙う/強まる労働基準法の解体攻撃】

 厚生労働省に設けられた「新しい時代の働き方に関する研究会」は、昨年3〜10月に17回の会合を重ね報告書を発表した。同研究会は、グローバル資本と岸田政権の意を受け「新しい時代を見据えた労働基準関係法制度の課題を整理することを目的」としていた。

 これを受け、また2018年成立の「働き方改革関連法」の中に「労働基準法等の見直しについて具体的な検討を行う」とあることを名分に、今年3月「労働基準関係法制研究会」(労基研)が設置され、すでに7回の会合を持っている。

 労基研はまだ報告書は出していないが、議事録を読む限り、その基調は前年の研究会同様に、労働基準法の根本である労働者保護の性格を破壊する資本の狙いに呼応するものである。

労基法は強行法規

 前述の報告書は、まず「労働市場の変化」「働く人の意識の変化・多様性」を強調する。現行労働基準法が工場法(1911年)を前身とする法律であることをあげ、現代の働き方はその当時とは異なる点を指摘する。しかし、労働者が使用者の指揮命令を受け、その経済的な従属の下に自身の労働力を提供する現実は今も昔も変わらない。資本主義社会のこの普遍的な構造を無視し、労働者に対しては次のように説教する。

 「働き方を自ら選択し、働きがいを持って仕事に取り組み、自発的にキャリアを積み重ねていく姿勢を持つことが重要」「働く人は、業務遂行の面でも健康管理の面でも自己管理能力を高めることが求められている」「働く人は、自主的に 能力開発に 取り組むことが求められている」などなど。報告書は、明らかに使用者=資本側の視点で作成され労働者の自己責任を一方的に要求している。

 労働基準法制は、労働時間や賃金支払いなど労働条件の最低基準を定めるものであり、労使の合意をもってしても破られない絶対の基準としての効力=強行法規性を有する。労働基準監督官は、労働関係法令違反の罪に関しては司法警察員として、逮捕、差し押え・捜査・検証などの権限を持つ。このように強行法規として存在するからこそ、労働基準法は労働者保護の最大の砦となっている。


法の適用除外を狙う

 しかし、報告書は、企業側の意見としつつも、「労働時間と成果がリンクしない働き方をしている労働者については、労働者とコミュニケーションを図り同意を得た上で労働時間制度をより使いやすく柔軟にしてほしい」と述べる。

 両研究会双方の構成員である水町勇一郎早大教授は、労基研第1回会合で「国際的に重視されているのは、労働組合の組織率が減少傾向にある中でも、労使でどのようにルールを実態に合わせてつくっていくか、それが労使関係のあり方とか労使コミュニケーションのあり方」と述べる。

 これは2024年1月、経団連から出された「労使自治を軸とした労働法制に関する提言」のいう労使合意を条件に労働基準法からの逸脱、適用除外を認めよ≠ニいう要求と符合する。経団連は、具体的には定額働かせ放題の高度プロフェッショナル制度の厳格な職種限定を労使合意で解除し職種を拡大できるように求めている。

 労基研座長の荒木尚志東大教授は2023年12月、経団連労働法規委員会において「労働者や働き方の多様化を踏まえた今後の労働法制のあり方」と題して講演。「多様化に対応するために諸外国でも採用されている手法として、労使の集団的合意を条件に、法定基準を現場の実態に合わせて解除・柔軟化する仕組み(デロゲーション)がある」と述べている。この講演内容に基づいて提言が作られたのは明白だ。

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 今、使用者=資本側と一体化した御用学者たちの研究会と報告書を通じ、「適用除外」「柔軟化」の名による労働基準法そのものの解体が進められようとしている。

 労働者の権利を根本的に破壊する攻撃を許さず、すべての労働者・労働組合とともに阻止へ声を上げよう。

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