2024年06月07日 1824号

【元乃木坂46 「デモの有効性」に疑問/社会正義はコスパで語れぬ/ガザの惨状は他人事じゃない】

 イスラエルのガザ侵攻に対する抗議デモが世界各地で広がっている。運動の中心は学生で、自国政府や大学当局に「虐殺に加担するな」と訴えている。そんな中、日本の女性タレントが「デモの有効性」を疑問視する発言をテレビ番組で行い、批判を浴びた。

アイドルが語って炎上

 問題の発言は5月4日放送の情報番組『ウェークアップ』(日本テレビ系)の中で飛び出した。番組は、イスラエルのガザ侵攻に抗議する学生デモが全米で広がっていることを紹介。その映像を受けるかたちで、ジャーナリストの堀潤が「日本でも若者が立ち上がっている。遠巻きに見ているだけでいいのか」という趣旨のコメントをした。

 この発言にタレントの山崎怜奈(れな)(元乃木坂46)が異論を唱えた。いわく「ただ、学生たちと年齢が近い私からすると、せっかく入った難関大学を退学処分になるかもしれないという可能性もはらんでいる中で、デモの有効性ってどこまであるんだろう」。

 そして別の出演者(元NHK記者の岩田明子)に質問を投げかけた。「若者たちが起こしているデモがアメリカの政府とはいかなくても、国を動かすっていうことがどのくらい可能なのか、いかがですか」

 一連のやりとりがSNSで拡散されると、山崎への批判が殺到した。「損得で考える意味がわからない」「コスパが悪いとでも言いたいのか」「まあ、日本の若者の意見はそんなところだろう」 等々。

 たしかにデモ参加者を愚弄していると受け取られても仕方ない発言だ。とはいえ「だからアイドルは駄目なんだ」と叩いたところで、擁護派との溝が深まるだけであろう。それに番組を見る限り、実業家のひろゆきのような「悪意ある冷笑」とは言い切れない。

 山崎は「今どきの若者代表」として番組に起用されていることを分かっているはずだ。その役割に沿っての発言だとすれば、売れっ子コメンテーターになる資質はある。デモに対する見方は日本の若者意識をちゃんと「代弁」したものになっているからだ。

若者のデモ忌避感

 日本財団が6カ国で実施した18歳意識調査(2024年2月)をみてみよう。「自分の行動で、国や社会を変えられると思う」と答えた人の割合が日本は45・8%で最低だった。NHKの「日本人の意識」調査は、デモなどの行動が有効だと認識する人が長期的な減少傾向にあることを示している(1973年に47%だったのが、2018年には21%にまで減少)。

 後者は若者に限った傾向ではないが、デモに対する忌避感はやはり若い世代ほど強い。連合が15〜29歳のZ世代を対象に社会運動に対する意識を聞いた調査がある(2021年12月実施)。参加したくない社会運動の圧倒的1位は「集会やデモ、パレード等」(46・8%)であった。

 ちなみに、社会運動にどのようなことを期待するか聞いたところ、「運動の成果を感じられる」(27・7%)が最も多かった。若者にとって「有効か否か」が参加への重要な判断材料であることがわかる。

 なぜ若者はデモを嫌うのか。ひとつには、近年の日本社会において社会運動が不可視化されている点が考えられる。学生運動はほぼ消滅、労働運動や市民運動も一般人には見えづらい。こうした状況では自分たちの行動が社会を動かし、変えていくというイメージを持ちづらい。

 そのうえ、政治や社会問題にかかわるのは「変わっている」「ダサい」「意味がない」という固定観念を、あらゆる場面で刷り込まれてきた(「意識高い系」という揶揄(やゆ)もこの変種)。これが心理的な足かせとなり、「声を上げること」を抑圧してきたのだろう。

 だが、変化の兆しはあらわれている。破壊と殺戮が続くガザの現実。イスラエルの蛮行を食い止めるために立ち上がった世界の若者たち。それを知った日本の若者にも行動を促す「やむにやまれぬ」感情が生まれているのだ。

現実を変える力

 「イスラエルの攻撃でガザの子どもたちが殺され、餓死している。だが、大学は攻撃に関与するイスラエル企業に投資している」。米コロンビア大学でデモを主導した一人である大学院生はこう憤る(5/7読売)。

 『Z世代のアメリカ』などの著書がある三牧聖子・同志社大准教授は若者たちの怒りを次のように読み解く。今回の抗議も、人命尊重や構造的差別の解消を掲げたブラック・ライブズ・マター(BLM)運動の延長線上にあるのだ、と。

 「イスラエルの最大の軍事支援国である米国の大学に学ぶ自分たちは当事者だという感覚がある。自分たちの日常が大学や企業を通じ、イスラエルとつながっているという感覚は日本の学生たちにも共有されている」(5/24朝日)

 実際、青山学院大学で「読書デモ」を主催した学生は、SNSを通してガザの悲惨な様子が流れてくる中、「国際政治を勉強しながらこのまま何もしないことに耐えられなかった」と語る(5/16毎日)。

 東京大駒場キャンパスでは学生たちが「パレスチナ連帯キャンプ」を運営している。泊まり込み行動を続ける農学部の学生は「米国の大学生たちのニュースを見て、いてもたってもいられなくなり」、具体的な行動で意思表示をしているのだという(同)。

 こうした若者たちの抗議行動は目に見える成果を上げている。11月に大統領選を控えるバイデン米政権は若者の声を無視できず、イスラエル全面支持というわけにはいかなくなった。日本でも、抗議の対象となった伊藤忠などがイスラエルの軍事企業との協力関係を見直す動きがあった。

 デモは政治を動かし、人びとの意識に変化をもたらし、同じ思いを抱く仲間を勇気づける。有効かどうかを問われたら、答えはもちろんイエスだ。  (M)



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