2024年06月21日 1826号

【激化する日米合同軍事演習/生活圏を戦場にする「生地(せいち)訓練」に拍車/「これで100点」戦争準備完成形】

 防衛省は2024年版防衛白書の素案を自民党に示した(6/5)。27年までに軍事費総額43兆円(22年時点)とする目標はすでに42%を契約したという。購入する米国製兵器は円安で一層水膨れし、「GDP2%」は軽く突破しそうだ。さらに見過ごせないのは、統合司令部設置による日米両軍の一体化だ。7月に閣議決定する白書でどこまでその実態を明らかにするか分からないが、基地増強とともに激化する軍事演習を止めなければならない。

あえて軍民一体

 「この芝生はキャンプ場です」。その中で迷彩服の兵士が何人も腹ばいになり銃を構えている。「戦争のための自衛隊配備に反対する奄美ネット」代表城村典文さんが、今年3月に行われた日米合同軍事演習「アイアンフィスト24」の一場面を紹介した(5/31ZENKOスピーキングツア―兵庫集会)。演習が行われたのは、鹿児島県沖永良部島(おきのえらぶ)の知名(ちな)町キャンプ場だ。

 アイアンフィストはこれまで米国カリフォルニア州の米軍演習場で行われていたが、昨年から九州・沖縄で実施。今年は、陸上・海上自衛隊と米海兵隊・海軍あわせ2100人を動員。英・仏・独など6か国がオブザーバー参加している。

 自衛隊は、演習場の区域外で行う軍事演習を「生地(せいち)訓練」と呼んでいる。その場は公的施設であったり民間の土地であったりする。青少年の交流を目的とした町営キャンプ場を軍隊が訓練に使った。意図的に、日常生活圏を「戦場」に変えたのだ。

 元陸将の山下裕貴千葉科学大学客員教授は「生地訓練ができれば100点だ」とインタビューに答えている(2022年12月2日朝日新聞GLOBE+)。山下は南西諸島への軍備の「基礎配置」が完了した段階にいたれば、「これで50点。毎年日米共同訓練をして90点。残る10点は生地訓練ができるかどうかだ」と論じている。実際の戦闘と同じ条件でなければ演習の意味がないということだ。

 鹿児島薩南諸島から沖縄琉球弧の島々への軍事基地、ミサイル部隊の配置と共に日米共同訓練を基地の外、市街地で積み重ねること。日米両軍の「完成形」をそう描いているのだ。

「戦場」は九州・沖縄

 日米共同訓練のシナリオはすべて対中国攻撃作戦とみてよい。陸自は毎年、米陸軍との共同演習「オリエント・シールド」を実施。23年は9月に北海道・帯広から奄美・名瀬港へ高速フェリー「ナッチャンWorld」(防衛省が10年間の使用契約を結ぶ民間船)でミサイル車両や部隊を輸送した。米陸軍オスプレイが奄美空港を使用するなど、日常生活圏への侵犯が常態化してきた。

 陸自は21年から海兵隊との軍事演習「レゾリュート・ドラゴン」を始めた。米海兵隊の対中国攻撃の戦術「EABO」(機動展開前進基地作戦)を担う陸自の戦闘能力を高める目的だ。初回から総勢4000人が動員された大規模のものであったが、「戦場」は北海道・東北の自衛隊演習場だった。海兵隊は沖縄の普天間基地やキャンプシュワブからオスプレイ「移転」訓練を行った。

 琉球弧の島々を移動しながら中国を攻撃するEABOは沖縄の人びとに「沖縄戦の悲劇」を思い起こさせる。軍事演習をその九州・沖縄で行っては反発が大きいことを防衛省も想定したと思われる。だが、23年、「戦場」は全国化した。北海道から沖縄・与那国まで19の基地が使われている。大分、熊本、宮崎、鹿児島の演習場や沖縄の米軍基地、自衛隊基地を組み込んだのである。今年も7、8月にレゾリュート・ドラゴン24が予定されている。「戦場」は九州・沖縄だ。

 防衛省は、隔年で実施している最大規模の日米3軍による統合軍事演習「キーンソード」を今年10月〜11月に実施すると公表している。「場所は調整中」としながら、沖縄、奄美であることは間違いない(4/14琉球新報)。前回22年の時は、与那国空港に16式機動戦闘車を搬入、一般道を走らせた。今や九州・沖縄では日米合同軍事演習が通年化し、さらに生活圏に入り込む「生地訓練」が常態化しているのである。


反基地ネットワークを

 薩南諸島から琉球弧の島々は基地建設の進展に合わせ、軍事演習の舞台に組み込まれた。最初は通信基地、そこに弾薬庫ができ、ミサイル部隊が配置される。基地反対運動を値踏みするかのように、拡大してきた。「諦め」を押し付けようとする狙いもある。

 全国で急速に進む軍事基地増強とどう闘うのか。各地の反基地運動をつなぎ、闘いのネットワークを強化する以外にない。ZENKO(平和と民主主義をめざす全国交歓会)が取り組んでいるスピーキングツアーもその一つだ。

 「ノーモア沖縄戦 命(ぬち)どぅ宝の会」の事務局長新垣邦雄さんは会のメルマガ第258号に次のように書いている。「反対する市民組織の結成が全国で相次いでいる。もはや沖縄だけの問題でなく、共通するのは『軍事施設は攻撃目標となる』『住宅密集地に軍事施設は許されない』という現実味を帯びる戦争への切実な危機感だ。『各地の運動がバラバラでは止められない』という共通認識から、『全国ネットワーク化』が動き出した」。「ノーモア沖縄戦えひめの会」や「大分敷戸ミサイル弾薬庫問題を考える市民の会」などとの交流を深めている。戦争につながる一切のものに反対する闘いをつなげることが問われている。

   *  *  *

 「今日のウクライナは明日の東アジア」と繰り返し主張する岸田文雄首相の意を受けて、今年の防衛白書に「(ロシアのウクライナ侵攻)同様の深刻な事態が東アジアで発生する可能性は排除されない」と書き込むという。「台湾有事」を煽るだけでは危機意識が足りないということか。

 そのウクライナ戦争はますます泥沼の様相だ。欧米諸国はウクライナに提供した兵器をロシア領土への攻撃に使用することを認めた。提供されるミサイルの射程は100`b未満に制限していたが、今や300`bに及ぶものも提供している。戦車や戦闘機の提供にも踏み切った。この事態から何を学ぶのか。「殺し合い」はますます強力な武器を欲しがるということだ。

 安倍晋三元首相以上に軍事オタクを自認する岸田が今後どんな武器を欲しがるのか。軍事費43兆円では足りないと言い出すに違いない。一刻も早く、自衛隊最高司令官(自衛隊法第7条、総理大臣が最高指揮権をもつ)の座から引きずり降ろさねばならない。

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