2024年06月28日 1827号

【みるよむ(700)/2024年6月8日配信/名前がないイラクの女性たち】

 イラク社会で、女性は実名を隠されてしまうという時代遅れの習慣が現在も続いている。女性の人権は、当たり前に名前を呼ぶことすら制約され、踏みにじられている。サナテレビはその実態を明らかにした。

 イラクでは犯罪などの犠牲者となった女性でも、メディアでは名前は仮名で顔写真も出ない。他のイスラム諸国でも、SNSで女性の名前を出すことは「恥ずべきこと」とされる国もある。社会的な名誉や感謝を受ける時でも「○○さんの娘さん」と名前を伏せられ、女性が亡くなっても、名前は出ず、その男性家族の娘、妻、妹など、家族とつながりを示す呼び方が出される。

 映像では、文学者の女性イクバルさんの例を挙げる。文学者として知られ、夫も有名な詩人だ。夫は彼女を本名で呼んでいた。

 彼女が亡くなった時にはバスラ大学が追悼の横断幕を掲げた。ところが横断幕には、イクバルさんの実名ではなく彼女の息子の名前に付した「母親を表わす称号」を書いただけだ。「女性の名前は恥である」との感覚だ。

聖典を根拠にした悪習

 これは、千数百年前に作られたイスラム教の聖典コーランに女性の実名はマリアしか出てこず「アダムの妻」「ノアとロトの妻」などと記述されるところから来ているようだ。しかし、21世紀の今、このような時代錯誤がいつまでも横行していいはずがない。

 サナテレビは、大学教育に対しても「人間とその人物そのものを尊重することを教え、特に人間と女性をおとしめる後進的な社会習慣や伝統を批判する」ことを求めている。

 女性の名前を社会的に出さないという差別の横行。政府が市民の不満を抑え込むためにコーランの記述などを利用していることによるものだ。サナテレビはこうした宗教支配を終わらせ、平等で民主的な社会に変革しようと訴える。

(イラク平和テレビ局in Japan代表・森文洋)

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