2024年07月12日 1829号

【フィリピンとの共同軍事演習促進/2プラス2で「円滑化協定」締結へ/対中国軍事同盟の拡大はかる】

 日本政府は軍事同盟を急速に拡げている。対中国軍事包囲網である東アジア版NATO(北大西洋条約機構)をめざしているのだ。7月にはフィリピンとの共同軍事演習を一層促進する「円滑化協定(RAA)」を締結する。「台湾有事」に重ねて、南シナ海にまで軍事緊張を煽(あお)ろうというのである。国際紛争は交渉で解決する。この基本原則に立ち返らねばならない。

日米比3軍合同

 木原稔防衛相と上川陽子外相は7月7〜8日にフィリピンを訪問し、2回目の外務防衛閣僚会談(2プラス2)に臨む。2プラス2は、もともと1960年以降の日米安保体制を維持するための日米間の枠組みだった。軍事力を背景にした外交を象徴し、軍事同盟を補完するものだ。日本政府は2007年のオーストラリアを皮切りに対象国を拡げている。

 フィリピンとは22年4月、初の2プラス2でRAA締結を基本合意。一方、軍事協力・交流はすでに15年、「人道支援・災害救援」を名目にした訓練を始めている。今では中国を想定した軍事演習を堂々と行うようになった。

 毎年行われている米比両軍の最大軍事演習「バリカタン」(タガログ語で肩を組む意)。今年4〜5月、39回目になるバリカタンに自衛隊がオブザーバー参加した。オブザーバー参加国は日本の他に東南アジアのブルネイやインドネシア、マレーシア、シンガポール、タイなど14か国にもなる。米軍は中国を射程にとらえる中距離ミサイル発射装置まで搬入した。

 今年RAAを締結すれば自衛隊は来年のバリカタンに正式参加することになる。日米比3軍による共同軍事作戦。つまりフィリピンの軍事基地と九州、琉球弧の軍事基地が連動し、対中国軍事行動を起こす態勢ができあがる。

中比の紛争利用

 中国との軍事緊張を高めるにはフィリピンは「適役」だ。「台湾有事」は、公式には「一つの中国」の立場をとる米政府や日本政府にとっては中国の「内戦」であり、介入は内政干渉となるからだ。フィリピンの場合は違う。

 比国軍は6月18日、南シナ海で補給任務中だった水兵1人が中国海警局の艦艇の体当たりにより重傷を負ったと発表した。現場はフィリピンの排他的経済水域(EEZ)内のアユンギン礁(英語名セカンド・トーマス礁)。中国が「歴史的権利」を主張する「九段線」(23年中国が1つ追加し「十段線」)の中にあり、これまでも両国の威嚇行動が繰り返されてきた。フィリピンは揚陸艦「シエラマドレ号」を座礁させ、軍事拠点としている。

 軍事衝突に至るかどうかは政治指導者らの姿勢にかかっている。16年7月、国連海洋法条約に基づく仲裁裁判所は中国の「歴史的権利」を認めず、紛争の種は残った。だがフィリピンは、その直後に大統領に就任したドゥテルテの下では紛争の深刻化を避けた。中国の習近平国家主席との会談で、互いに施設の拡張・新設をしないことなどで合意。20年には米国との訪問軍地位協定を破棄し、米比軍事演習も中止した(後に破棄を撤回し、演習再開)。

 中国との緊張を再び強めたのは、22年に就任したマルコス・ジュニア大統領だ。今年4月には日米比3か国首脳会談を行うなど米国重視へ復帰。米比軍事演習は規模を拡大し、南シナ海での中国との衝突≠ヘエスカレートし始めた。




解決の道は外交

 南シナ海はフィリピンの他、ベトナム、マレーシア、ブルネイがそれぞれ権益を主張する境界線が幾重にも重なっている。豊富な海底資源の存在がその利害対立の要因にもなっている。

 ASEAN(東南アジア諸国連合)は、中国との間で、紛争の平和的手段による解決をめざす「南シナ海行動規範(COC)」の策定に向け協議を続けている。17年の協議開始以来長い年月を費やしているが、これ以外に問題を解決する方法はない。

 フィリピンの様々な市民団体は米比軍事演習への抗議行動を繰り返し行っている。米国の中国敵視政策に利用されていると警戒しているのだ。「軍事演習はフィリピンを中国の標的にしただけだ」。中国との平和解決を遠ざけ「一般人は得るものは何もなく、失うものの方が大きい」と訴え、中国の軍事施設も米軍基地も撤去を求めている。

  *  *  *

 中国と市場を争う米国が中国に経済的制裁を加えるには、軍事的な脅威である必要がある。「危険な国」だから「制裁」を合理化できるわけだ。「台湾有事」も「南シナ海」もいわばそのための反中国キャンペーンに利用されている。

 日本は中国経済とはより強い結びつきがありながら、軍事緊張を煽る先兵の役を引き受けている。自衛隊の侵略軍化と軍事産業育成を優先したためだ。フィリピンは日本が武器輸出の道を広げるために創設した政府安全保障能力強化支援(OSA)の最初の国になった。今後、フィリピンをモデルとして東南アジア諸国を相手にOSAを拡げ、実質的な軍事同盟化(RAA締結)をめざそうとしているのだ。

 アジアの民衆は軍事緊張も、日本軍の再来も望んではいない。

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