2024年07月12日 1829号

【在沖米兵の相次ぐ性犯罪/日本政府の「隠蔽」は明らか/命と安全より軍事同盟を優先】

 基地があるゆえの犯罪がまたくり返された―。沖縄で在沖米軍兵士による性犯罪が相次いでいる。日本政府は逮捕・起訴の事実を公表せず、沖縄県への連絡もしなかった。日米軍事同盟の強化=沖縄の軍事要塞化路線を進めるための隠蔽措置ではないか。

16歳未満の少女が被害

 16歳未満の少女を誘拐し性的暴行を加えたとして、那覇地検が不同意性交とわいせつ誘拐の罪で在沖米空軍兵長の男を在宅起訴していたことが分かった。起訴は3月27日付。沖縄県は地元紙の報道(6/25)で初めて知った。政府からの情報提供がなかったためだ。

 起訴されたのは、米軍嘉手納基地に所属する空軍兵。起訴状によると、昨年12月24日、読谷村の公園にいた少女を車で誘拐して自宅に連れ去り、暴行を加えて同意のない性交に及んだとされる。少女の関係者からの通報で事件を認知した沖縄県警は米軍の管理下にある空軍兵を任意で調べ、書類送検した。起訴後、身柄は日本側に移ったが、現在は保釈されている。

 不可解なのは日本政府の対応だ。少女への性的暴行という重大事件にもかかわらず、沖縄県に対して一切連絡しなかった。外務省は起訴のタイミングでエマニュエル駐日米国大使に「遺憾の意」を伝達し、綱紀粛正と再発防止の徹底を申し入れているが、そのことを含めて沖縄県には何も伝えなかった。

 玉城デニー知事は「女性の尊厳を踏みにじるものだ」と米兵の犯罪に強い憤りを示した上で、事実を伏せていた政府の対応を「著しく不信を招くものでしかない」と批判した。一方、外務省の小林麻紀外務報道官は「常に関係各所へ漏れなく通報が必要であるとは考えていない」(6/26記者会見)と開き直った。

 米兵による重大事件・事故については、1997年の日米両政府の合意で「迅速に現地の関係当局へ通報する」とされているが、そのさじ加減は時の政府の思惑次第ということか。人権無視もはなはだしい。

犯罪隠しの背景

 犯罪隠しはこの一件だけではなかった。5月にも在沖米兵による性暴力事件が起きていたが、沖縄県警は逮捕を公表せず、情報を把握した外務省も沖縄県に伝えていなかった。

 事件が起きたのは5月26日。米海兵隊員に所属する上等兵が性的暴行をしようと成人女性を襲い、女性の首を締めるなどして2週間のけがを負わせたとされる(6月17日に不同意性交致傷罪で起訴)。この事件も地元紙が6月28日に報じるまで、県は事実を知らされていなかった。

 まだある。今年1月、別の米海兵隊員が不同意性交容疑で緊急逮捕されていた。沖縄県警は事件の公表や県への情報共有を行わず、のちに不起訴処分になったという。これらの事件を時系列で振り返ると、米軍絡みの事件を隠そうとした背景が浮かび上がる。

 少女暴行事件があった昨年12月末、名護市辺野古の米軍新基地建設をめぐる裁判の行方が注目を集めていた。20日の高裁判決で沖縄県が敗訴。28日に政府が県の権限を奪って手続きを行う「代執行」を強行した。

 起訴直後の4月8日には岸田文雄首相が国賓待遇で訪米。日米を地球規模で協働する「グローバル・パートナー」と位置づけるなど(共同声明)、対中国を念頭に置いた軍事分野における連携の強化を確認した。

 5月17日にはエマニュエル駐日米大使が与那国・石垣両島を米軍機で訪問、陸上自衛隊の施設などを視察した。視察には在沖米軍のトップである四軍調整官が同行した。「台湾有事」をにらんだ中国へのけん制であることは明らかだ。

 そして6月には沖縄県議会議員選挙が行われた(7日告示。16日投開票)。米兵の性暴力事件が明るみに出て基地問題が争点化しては基地推進・容認派が不利になる――岸田政権・自民党がそう考えたことは想像に難くない。

軍事的植民地状態

 辺野古新基地建設、日米首脳会談、沖縄県議選―。これらへの影響を回避するために、日本政府が一連の米軍事件の隠蔽を図ったとみるのが自然である。連中は沖縄県民の命と安全よりも日米軍事同盟を優先したのである。

 沖縄県内では1972年の「復帰」からの50年間で、米軍関係者による凶悪犯罪の摘発が584件にものぼる(県警発表)。そのうち「強制性交等」は134件となっているが、明るみに出なかった事件が相当数あることは明らかだ。

 基地があるゆえの犯罪が後を絶たないのは、沖縄がいまだに軍事的植民地状態にあることを物語っている。ほかならぬ日本政府が「基地の島」であり続けることを望んできたのだ。今回の隠蔽にしても動機はそこにある。      (M)

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