2024年07月12日 1829号
【読書室/うさんくさい「啓発」の言葉 人財≠チて誰のことですか?/神戸郁人著朝日新書 870円(税込957円)/「搾取ワード」への警鐘】
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著者は、人材派遣会社の広告にある「人財」がいつ頃から使われてきたのかを調べた。最初は1968年発行の経済誌。高度経済成長期で終身雇用が当たり前の時代に、労働者の「いかに会社の役に立つ社員となるか」の意識と会社側の「いかに育てるか」の意識が「人財」という「啓発の言葉」に込められていた。
ところが、80年代後半になると新たな「ジンザイ」が登場する。「人罪(やる気がなく、企業の発展を阻害する社員)」「人在(ただ会社にいるだけの社員)」である。背景に「労働力の流動化」の名の派遣社員など非正規労働者の増加がある。使い捨てが当たり前となる中、企業が受け入れる「人財」となる努力は労働者の「自己責任」となった。
「人財」と同様の「啓発の言葉」には「顔晴る(がんばる)」「志事(しごと)」など、いかにも前向きな意味を込めた印象を抱かせつつ、長時間労働、低賃金への不満を押さえ込む力を持つ言葉がある。また、採用時に重要視されるようになった「コミュ力」も、企業にとって採用時の恣意的な選別を可能とする都合のよい言葉なのだ。
著者が取材した雇用・労働政策研究者の今野晴貴は「啓発の言葉は『搾取ワード』」と表現。近現代史研究者・辻田真佐憲は「巧みな言葉遣いで…過酷な労働を受け入れさせようとする」。ジャーナリストの堤未果は「権力が『利便性』を強調して煽る制度に罠がある」と、マイナカード普及宣伝を例に権力の隠された意図を批判する。
企業、権力の使う「啓発言葉」「プロパガンダ」を疑うことは、自らの権利を守る上できわめて重要だ。そのことを本書から読み取ることができる。
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