2024年07月19日 1830号

【万博で「メタンガス注意報」?/避けられない夢洲リスク/「カジノありき」のツケが回った】

 メタンガスによる爆発事故、地盤沈下や液状化の恐れ、災害時の孤立化リスク…。大阪・関西万博の会場である夢洲(ゆめしま)に、この土地ならではの問題が噴出している。なぜこんな場所を万博会場に選んだのか。大阪を牛耳る維新がカジノのためにゴリ押ししたからだ。

メタンガスの巣

 大阪・関西万博の会場である夢洲で爆発事故が起きたのは3月28日のことだった。場所は屋外イベント広場横にあるトイレ棟。溶接作業で発生した火花が、床下の配管スペースに溜まった可燃性のガスに引火し、爆発したのである。

 日本国際博覧会協会(万博協会)によると、爆発事故が起きた現場では、今年2月28日から5月31日の間に、作業員を退避させる目安となる濃度を超えるメタンガスが76回も検知されていたという。爆発の恐れがある濃度を超えていたケースも19回あった。

 そこで万博協会は、メタンガスの滞留を防ぐために、機械を使って排気・換気を徹底することを柱とする対策を6月24日に発表した。さらにガス濃度計測を継続的に行い、開催中は測定値を毎日公表することを検討しているという。

 「『今日のメタン濃度』みたいな感じで、毎日人を入れる前にお知らせしようかなと考えています」(藁田(わらた)博行・整備局長)。入場可能かどうかはその日のメタンガス次第ということか。そんな国際イベントは聞いたことがない。

 6月24日の記者会見では、「なぜそんなところで万博を開くのか、国際社会の理解は得られないのではと思う。協会は適切だと考えているのか」という至極当然の質問がなされた。藁田整備局長の何とも苦しい回答は次のとおり。

 「協会は『ここでやれ』『対策して開会しろ』と言われているので、そこの答えは、私らに見解はないです。来場者の安全を守るというのは、主催者の当然の義務というか、開催の前提になりますので、そこは信じて来ていただいて、楽しんでくださいと」

 「信じて楽しめ」と言われても無理な相談だが、ある意味、正直な発言と言えなくもない。夢洲に集客施設を作るなんて誰かの強制がなければありえないということを言外に滲ませているからだ。

早すぎる土地利用

 ここで夢洲に関する基礎知識をおさらいしておこう。夢洲(大阪市此花区)は海を埋め立てて造成された人工島で、広さは約390ヘクタール(東京ディズニーランド8個分)。大阪市内で発生する一般廃棄物、産業廃棄物、浚渫(しゅんせつ)土砂、建設発生土の処分場として使われてきた。

 西側の1区(爆発事故が起きたエリア)は、焼却残滓や上下水汚泥などで埋め立てた現役の廃棄物最終処分場で、埋め立て物の分解にともないメタンガスが発生し続けている。大阪広域環境施設組合の調査によると、メタンガスの発生量は減るどころか、最近増えているという。

 最終処分場を廃止するには「埋立地からガスの発生がほとんど認められないこと」「またはガスの発生量の増加が2年以上にわたり認められないこと」が法律で定められている。夢洲はどちらも該当しない。将来的にはともかく、今はまだ安全に使用できる土地ではないのだ。

維新がゴリ押しした

 市民生活に必要なごみの処分場である夢洲を「負の遺産」と決めつけ、大規模開発をぶちあげたのは維新創業者の橋下徹だ。大阪府知事時代の09年にカジノ誘致構想を提唱。市長就任後の14年4月には夢洲を候補地にすると決めた。

 その4か月後、松井一郎府知事(当時)が大阪への万博誘致を表明した。ただし、府や経済界などでつくる検討会が会場候補地として選定した府内6か所の中に夢洲は含まれていなかった(2015年7月)。夢洲は交通アクセスの不備が指摘されていた。

 ところが2016年5月、松井知事が菅義偉官房長官(当時)と都内で会談し、その場で「会場候補地は夢洲を軸に検討する」と伝えた。これ以降、夢洲での開催は「知事の強い思い」ということで既成事実化していった。維新と安倍政権が一体となって「カジノありきの万博」を進めていったというわけだ。

 カジノという賭博場のインフラ整備に巨額の税金を注ぎ込むことには反対意見が強い。だから万博開催にともなう会場整備という大義名分が維新府政・市政には必要だったのだ。その維新が今、夢洲リスクにあがいている。膨れ上がる公費負担が「身を切る改革」の幻想を完全に吹き飛ばしてしまった。

 このままでは夢洲は本当に「負の遺産」になってしまう。今からでも遅くはない。万博は中止、カジノ建設もやめるべきだ。(M)

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