2024年07月19日 1830号

【読書室/体験格差/今井悠介著 講談社現代新書 900円(税込990円)/子どもの貧困はここにも】

 本書がいう体験とは、学校外でのスポーツ系や文科系の習いごとへの参加、家族旅行を指す。文科省の調査によれば、小学校4年生までは「その他の学校外活動費」(体験など)が「補助学習費」(塾や家庭教師)よりも多く支出され、小学校3年生での「その他の学校外活動費」が年間15万円となっている。

 低所得者にとってこの金額は負担だ。だから体験ゼロの子どもがいる。著者が心打たれたあるシングルマザーの話からその一端を知ることができる。「(小学生の)息子が突然正座になって、泣きながら『サッカーがしたいです』と言ったんです。…二人で泣きながら話をしました」

 イギリスなどの子どもの貧困調査には体験項目があり、それが満たされないことを貧困の一指標としている。それは、社会に生まれたすべての子どもが享受できるものとして、体験が人間の成長に効果を与える権利と認識するからだ。日本では体験を必須のものとはせず、「あったほうがいいが、なくてもしかたがない」とする認識が多い。

 本書は、著者のNPOが行った、日本初の「子どもの体験格差に特化した全国調査」(2022年、保護者2000人以上が回答)から見える社会の姿を描く。年収300万円未満の世帯で、年間で体験ゼロの子どもが3人に1人近くいる。保護者一人ひとりへの聞き取りは、見えにくいさまざまな貧困を浮かびあがらせる。

 著者は、体験格差の解消へ体験費用の補助やその場となる公共施設の活用などを提案する。「私の子ども」だけでなく「すべての子ども」へという意思、地域と社会全体の課題とすることは重要な視点だ。(I)
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