2024年08月16日 1834号
【ハマスの最高幹部を暗殺/停戦を拒むイスラエル/パレスチナ統一の妨害狙う】
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パレスチナ自治区ガザ地区に拠点を置くイスラム組織ハマスのイスマイル・ハニヤ政治局長がイスラエルによって暗殺された。彼は停戦交渉におけるハマス側の中心人物だった。これではっきりした。イスラエルのネタニヤフ政権が自ら停戦に動くことはない。
停戦協議つぶし
ハニヤ政治局長の殺害をめぐっては、8月1日付の米紙ニューヨーク・タイムズがイランや米国など複数の当局者の話として、イランの首都テヘランの滞在先に仕掛けられた爆発物によるものだったと報じた。イラン国内にいたイスラエルの対外諜報機関モサドの工作員が遠隔操作で爆発させたのだという。
一方、イラン革命防衛隊は異なる捜査結果を発表した(8/3)。「殺害は施設の外から発射された短距離飛翔体によるもの」というのだ。このように犯行手口は未だ不明だが、イスラエルが計画・実行した暗殺とみて間違いない。
暗殺されたハニヤ氏は1962年生まれ。ガザ北部のパレスチナ難民キャンプで、イスラエル建国にともなう民族浄化で故郷を追われた両親のもとで生を受けた。1980年代後半からハマスの有力メンバーとして活動。パレスチナ自治区での立法評議会選挙でハマスが勝利した際(2006年)には自治政府の首相に選出されている。
2017年に政治部門の責任者となり、ガザをめぐる停戦交渉でもハマス側の中心人物だった。ハニヤ氏の暗殺について、ガザの停戦交渉を仲介するカタールのムハンマド首相兼外相は「一方が他方の交渉人を暗殺する中で交渉の仲介が成立するはずがない」とイスラエルを強く批判した。
イスラエルの狙いははっきりしている。停戦協議を潰すことだ。戦争を終わらせたくないネタニヤフ政権はハマスを挑発し、「報復攻撃」に走らせようとしているのである。
2014侵攻と同じ
暗殺事件の8日前、パレスチナ自治政府の主流派ファタハとハマスを含むパレスチナの14の政治組織が中国政府の仲介で北京で協議を行い、「分断の終結と団結強化」をうたった「北京宣言」に署名した(7/23)。ガザでの戦闘終結後、「暫定民族和解政府」を樹立し、統治にあたることで合意したという。
ファタハとハマスが統一政権の樹立で合意したのは今回が初めてではない。最近の例では2021年2月に大連立構想が浮上したが、米国とイスラエルが受け入れず構想は瓦解した。久々に行われるはずだった立法評議会などの選挙も結局中止となった。
2014年6月には実際に統一内閣が発足し、米国もハマスの政権入りを容認していた。これをぶち壊すためにイスラエルが行ったのが「境界防衛作戦」と称したガザへの大規模侵攻だ(同年7月)。長年の封鎖により弱体化していたガザ地区の経済はこの軍事攻撃によって事実上崩壊したと言われている。
停戦後、ガザの支配権をめぐりファタハとハマスは対立。2015年6月に統一内閣は崩壊した。イスラエルにとっては、まさに思うつぼの展開となった。
市民が国際包囲を
在米ユダヤ人のパレスチナ研究者であるサラ・ロイは、2015年に発表した論考で次のように指摘している(青土社『なぜガザなのか』第2章)。
「パレスチナ人を分割・分離し、ガザ地区を西岸地区から切り離した上でガザ地区を完全に孤立させることで、パレスチナ国家の創立を妨げる。それがイスラエルが一貫して行ってきたパレスチナに対する主要な戦略である。(中略)入植事業や隔離壁の設置を進めても、ガザ地区が抵抗の源であるかぎり、またパレスチナが統一された国家となる可能性が残っているかぎり、西岸地区全体を完全に掌握することは不可能だ。それゆえ(ガザ地区を支配する)ハマースと(西岸地区を支配する)ファタハとが統一政府を樹立するという公式発表が、二〇一四年夏のガザ地区攻撃の直接の原因つまり引き金になったのだ」
この指摘は今回の暗殺事件にもあてはまる。背景にはパレスチナ統一を妨害する意図がある。パレスチナ側の力を削ぐには内輪もめさせておくのが一番だ。分断統治が植民地支配の基本と言われるゆえんである。
軍事力で圧倒するイスラエルはパレスチナに対してやりたい放題だ(破壊と殺戮、運動弾圧や要人暗殺)。これではまともな交渉など到底不可能だ。まずはイスラエルの暴力発動を止める必要がある。それができるのは市民による国際的な圧力の形成しかない。
自国の政府や企業に対し、国際法に反するイスラエルの蛮行に協力することのないよう働きかけることが求められている。 (M)
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