2024年10月04日 1840号
【イスラエル レバノンで無差別テロ攻撃/ネタニヤフ政権の生き残り策】
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イスラエルがレバノンで無差別テロ、空爆を続けている。パレスチナのガザ地区やヨルダン川西岸地区でもジェノサイドを続ける中で、戦闘地域を拡大した。国連総会がイスラエルの占領行為に対する非難決議をあげるのと同時だった。イスラエル国内ではネタニヤフ政権に対する史上最大の抗議デモが湧きおこっている。追いつめられるネタニヤフ政権は戦争継続に生き残りをかけているのだ。
ダヒヤ・ドクトリン
イスラエルの隣国レバノンで9月17、18日と相次いで数千台のポケベル、数百台のトランシーバーがいっせいに爆発した。走行中の車で、買い物中の市場で、手の中で、顔の前で。37人が死亡し、3400人以上が負傷した(9/20アラブニュースJapan)。
イスラエルがレバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラの戦闘員を狙ったと報道されているが、多くの市民が死傷した。ヒズボラがイスラエルによる位置探索を避けようと携帯電話の使用をやめる機会をとらえ、代替の通信機器数千台に爆弾を仕掛けた。爆発時に誰がそれを持っているのかは問わないということだ。
イスラエルはこの件にノーコメントだが、ポケベル納入企業はイスラエルのフロント(隠れみの)企業の一つと報道された(ニューヨークタイムス9/18)。
国連人権高等弁務官は民生品を武器に改造し、民間人に恐怖を与えるのは戦争犯罪であると糾弾している。
イスラエルの軍事作戦に「ダヒヤ・ドクトリン」と呼ぶものがある。生活基盤となるインフラの破壊などで市民に甚大な被害を与え戦意を奪うもので、レバノンの首都ベイルート郊外ダヒヤ地区を攻撃した2006年の第2次レバノン戦争以来、とられている作戦だ。ガザ地区の破壊状況はまさにその実践の結果なのだ。
イスラエルは続く19日、レバノン南部の100か所以上を空爆。ヒズボラのミサイル発射地を狙ったと言うのだが、被害がインフラや市民に及ぶことは作戦の内だ。20日以降もベイルートをはじめ、市街地を爆撃している。
汚職追及かわす開戦
ネタニヤフ政権はなぜ戦線を拡大するのか。「イスラエルの危機」を煽り、「祖国防衛の先頭にたつ政治リーダー」を演じることが自らの政治生命を永らえさせる唯一の道だからだ。
ネタニヤフは2021年3月の選挙で敗れるまで、15年間首相の座にあった。政権を追われたのは汚職疑惑がより深まったからだ。
現在、3つの収賄・詐欺・背任事件(▽富裕層の友人に便宜を図る見返りにシャンパンなど高価贈答品を受け取った▽大手新聞に競合他社を弱体化させる法案と引き換えに自分に好意的な記事を掲載するよう求めた▽大手通信会社筆頭株主との間で便宜を図る見返りにニュースサイトでライバル攻撃の記事を書く取り決めを交わした)で起訴され、裁判も続いている。露骨なメディア利用の手口にあきれるばかりだ。
ネタニヤフは極右政党と連立を組み1年半で政権に復帰。真っ先に行ったのが「司法改革」。国会の議決の妥当性を最高裁判所が審議することを阻止する法案を成立させた(23年7月)。国会議決を司法が審査できないとなれば、与党は好き勝手できる。ネタニヤフの疑惑をもみ消すこともできる。極右政党にとっては、「入植政策は違法」と判断した最高裁を黙らせることができる。
この法案に対し、イスラエル市民は23年1月から毎週土曜日、抗議行動を行った。10万人単位の人びとが国会を取り囲んだ。だが10月7日の攻撃で抗議行動は途絶え、ネタニヤフは危機を脱した。最高裁は24年1月、「改革法」の無効を決定したが、リクード党は「戦時中の団結を求める民意に反するものだ」と声明を発した(ジェトロ短信1/4)。「戦時」なら何でもできると思っているのだ。
50万人の抗議行動
イスラエル国内では、ネタニヤフ政権がハマスとの停戦交渉を引き延ばし、人質解放にまったく取り組んでいないことへの抗議の声が日増しに高まっている。
人質の家族団体「人質・行方不明者家族フォーラム」は8月31日、一般市民に改めて抗議行動を呼びかけ、数千人規模のデモが各地で展開された。9月1日はテルアビブで30万人の行動になった。その日、人質6人の死亡が伝わるや、イスラエル労働総同盟「ヒスタドルート」(27組合、約80万人)はゼネストを呼びかけた(ウェブサイト)。
ヒスタドルートの議長は「治安機関の責任者全員がこの(停戦)協定を支持しており、人質を帰国させるのは政府の責任である」とネタニヤフ政権の停戦拒否を批判。「私たちは負のスパイラルに陥っており、遺体袋を受け取り続けている。ストライキだけが事態を一変させることができる。明日午前6時からすべての職場でストライキをする」と宣言した。
ゼネストの背景には、人質解放の失敗に加えて、「経済的大惨事」の危機感がある。「この国の状況はますます悪化している」。インフレ、通貨安、財政赤字の上に、「連立政権で資金が不必要な省庁に流出し続けている」と軍事予算膨張への警戒感が表明された。この呼びかけに、過去最大となる50万人が抗議行動に参加した。
昨年末の世論調査では、ガザ地区の統治をパレスチナ自治政府に移譲することに反対する人が過半数だった。イスラエル軍のジェノサイドを批判する声は今もごくわずかだが、「完全勝利が人質解放の道」というネタニヤフ極右政権の言い分が通らなくなっているのは事実だ。
国連決議の実行迫る
国連総会(193か国)が9月18日に緊急特別会合を開き、ヨルダン川西岸・東エルサレムで継続する入植行為を1年以内に終らせることなど、イスラエルの占領政策を批判する決議を124か国の賛成で採択したことも、ネタニヤフ政権にとってはダメージである。国連加盟国に対し不当な占領状態の維持に関わる法人、個人に制裁を求めている。
東エルサレムを含むヨルダン川西岸地区では10月7日以来、146人の子どもを含む704人以上のパレスチナ人が殺されている(9/16時点)。入植者は16万5千丁以上の銃を手にし、20の村落から数千人のパレスチナ人を追い出した(Mondoweiss9/16)。イスラエル軍は8月末から、過去数十年で最大規模の攻撃を開始した(MIDDLE
EAST EYE8/30)。「ヨルダン川西岸の併合」はネタニヤフの選挙公約なのだ。
ネタニヤフ政権の最大の支援者は米政府であることは間違いない。米政府は国連決議に「反対」票を組織した。レバノンでの無差別テロについて、事前にイスラエルから情報を得ていた。次期大統領が共和党トランプになろうが、民主党ハリスになろうが、イスラエル擁護の姿勢は変わらない。
だからこそ、全世界からの闘いが一層必要となっている。20年目に入ったBDS(ボイコット、投資撤退、制裁)運動はその一つだ。イスラエル協力企業への抗議行動は国連決議を市民の運動と結合させるものだ。国際法のルールを守らせるのは市民の闘う力なのだ。日本政府・企業は犯罪国家イスラエルと手をきれ。
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