2024年10月04日 1840号

【自民党総裁選という茶番劇/大量露出しても「刷新感」はゼロ/誰がなってもダメなものはダメ】

 自民党は岸田文雄首相の後継を選ぶ党総裁選で「刷新」感を演出し、解散総選挙になだれ込もうとした。だが、その目論みは失敗した。メディアへの大量露出によって世間の注目は集めたが、「自民党はやはりダメ」という印象をさらに広げただけであった。

本命・進次郎の誤算

 今号の発行日は9月27日。自民党総裁選の投開票日と同じ日だ。よって選挙結果について語ることはできない。ひとつ言えるのは、自民党はメディア占拠には成功したが、目的である「刷新感」の演出は失敗に終わったということだ。

 選挙戦の主役は小泉進次郎元環境相だった。告示前は「大本命」と目されていたが、「解雇規制の緩和」発言や頓珍漢な回答で人びとに不信感を抱かせ、父親である小泉純一郎元首相のようなブームは起こせなかった(ネタとしてはさんざん消費されたが)。

 前者の発言は進次郎の出馬会見(9/6)の際に飛び出した。いわく「日本経済のダイナミズムを取り戻すために不可欠な労働改革の本丸である解雇規制の見直しに挑みたい」。

 労働契約法第16条は「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」と定めている。具体的には、▽人員削減の必要性▽解雇回避の努力▽人選の合理性▽解雇手続の妥当性―の4要件を満たしていなければ整理解雇はできないというルールが過去の判例から確立している。

 日本の労働現場では、規制ルールの存在を無視したかのような解雇がまかり通っているのが現実だが、その歯止めすら進次郎は「見直す」と言い切ったのである。まさに解雇の自由化を狙うグローバル資本の操り人形というほかない。実際、新自由主義政策の旗振り人である竹中平蔵(経済学者)や楽天の三木谷浩史会長兼社長は「進次郎支持」を公言した。

労働者の猛反発

 進次郎発言は「親子2代に渡る労働者いじめ」と受け取られ、激しい反発を引き起こした。SNSは「解雇規制緩和、怖すぎる。育児、介護、病気などの事情を抱えた社員は真っ先に解雇されそう」など、失業を案ずる声であふれた。「安定しない雇用環境が少子化を生み出した」という観点からの批判もあった。

 それでも進次郎は「若者の支持を得ている」(9/20配信ダイヤモンド・オンライン)と言い張ったが、他の候補者の攻撃材料となったことで、トーンダウンを余儀なくされた。とはいえ労働者・市民の生活を軽んじる姿勢に変化はない。

 石川県での討論会で、学生党員が奨学金返済の問題に触れ「40歳まで返済が続く中で結婚や子育てができるのか不安だ」と訴えたところ、進次郎は「大学に行くのがすべてではない」という的外れな返答をした。これで「若者の味方」を演じるのは無理がある。

 もっとも、進次郎はアレンジ能力の低さゆえに振付師の言うことをなぞるしかないのだと言える。他の候補者も本音の部分では進次郎と大差ない。選挙に不利なことを今は黙っているだけだ。世論はそれを見抜いており、総裁選で刷新感など抱くはずもなかった。

裏金解明にも消極的

 そもそも、岸田退陣の引き金となった自民党派閥の裏金事件の真相究明には候補者全員が後ろ向きであった。共同通信が実施した政策アンケートで、事件の再調査が必要だと答えた者はゼロ。推薦人20人のうち13人を裏金議員が占めた高市早苗経済安全保障担当相は、裏金議員の公職就任を「問題ない」としている。

 ところが、出演したテレビ番組(9/17放映「NEWS23」)で、役職停止処分を受けた者まで推薦人に名を連ねていることを司会者から追及されると、高市は「選対チームまかせだったので、どなたが推薦人になったのか知らなかった」と言い訳した。これまでも居直りの虚偽発言を連発してきた高市らしい。

 同じ日の放送では旧統一教会に関する質問も出た。2013年参院選の直前、教団幹部と安倍晋三元首相が自民党本部で面会し、自民比例候補への選挙支援を確認していたという朝日新聞の報道を受け、「総裁になった場合、教団との関係について再調査を行うかどうか」を候補者9人に尋ねたのだ。全員が沈黙し、誰も手を挙げなかった。

  *  *  *

 総裁選で疑似政権交代気分を味わわせ、人びとの不満をガス抜きする―。自民党がピンチに陥った際の常套手段だが、今回はうまくいかなかったようだ。ただし茶番劇にドン引きし、変革をあきらめてしまっては連中を利することになる。自民だけが選択肢と思わせる総裁選の罠にはまってはならない。    (M)

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