2024年10月11日 1841号

【石破政権は極めて危険だ/米軍と対等な日本軍へ加速】

 9人の候補が乱立した自民党総裁選を勝ち抜いた石破茂。「党内野党」と揶揄(やゆ)された石破だったが、菅・岸田の両首相経験者に支えられ、今後「党内与党」として政権をつくる。「裏金事件」の本質である企業献金廃止には踏み込まず、その一方で、米軍と対等な日本軍創設を打ち出した。わずか70万人の自民党員・議員が選んだ石破政権に、今度は有権者1億人が審判を下す番だ。

菅・岸田の支え

 石破総裁を誕生させたのは岸田文雄前首相・菅義偉元首相であった。党人事、組閣人事がよく示している。

 総裁選挙結果(9/27)をふり返る。

 石破の評価は「党員票で優位、議員票で劣勢」。ところが今回、優位であるはずの党員票で高市早苗に1票(得票率0・2%)負けた。議員票は26も少ない。石破は高市との決選を想定し、麻生太郎副総理、菅に面談。岸田には「政策継承」を表明し、議員票の獲得のため頭を下げた。

 「派閥解消」で「拘束」はなくなったはずだが、旧安倍派、麻生派は高市に、旧岸田派、菅グループは石破を推した。旧岸田派議員は「派閥幹部から指示があった」と述べている(9/28東京新聞)。

 石破は、菅グループから1回目に小泉進次郎が得た議員票75、旧岸田派からは林芳正の38票などを積み上げ、逆転勝利。小泉進次郎は党選対委員長に、菅は麻生を追いやり副総裁に就いた。林は官房長官を続ける。

 「裏金事件」について石破はどんな立場か。総裁選立候補時(8/24)に「裏金事件に厳しく臨む」と表明し、処分議員は公認しないと意気込んだが、党内の不評を買い早々と修正。「議員に反省を求め、ルールを守る倫理観の確立」と「総裁選の党員票ウェートの引き上げ」とする「党改革」へと後退した(総裁選所見9/12)。ルールを守らなかった議員に説教するだけで終わりということだ。石破は総裁の座欲しさに、「裏金事件」から逃げたのである。

経済政策は岸田流

 弱点とされる経済政策についても力関係に従った。

 石破は総裁選の初め頃、岸田が首相就任後断念した株式の売却益など金融所得への課税強化や法人税・所得税の引き上げについて言及。岸田との違いを出したかった石破は「(金融課税は)実現したい」と不用意に発言し、炎上。あわてて「(投資を阻害する課税は)毛頭考えていない」と消火に務めた(9/6外国特派員協会会見)。総裁に勝利するや株価急下降。「貯蓄から投資の流れは推進」と改めて強調している(9/27民放番組)。結局、石破の経済政策は「新しい資本主義にさらに加速度をつける」と岸田の経済政策をなぞるだけだった。

 「経済・財政」政策では「半導体・AIなど輸出企業のサプライチェーンを国内で整備し、…国の投資も強化」「安全を大前提とした原発の最大限の利活用、…日本経済をエネルギー制約から守り抜く」。「実質賃金・生産性の向上」では「リ・スキリングやデジタルインフラ整備」「人手不足緩和にも資する、兼業・副業規制の撤廃」など、岸田政権のやってきたことを並べた。

 「新しい資本主義」の実現はグローバル資本の成長戦略を表している。独自の経済政策を持たない石破としても、そのまま飲み込んでおけばよいということだ。

軍事政策は石破流

 ではこだわりのある安保(軍事)政策はどうか。持論である「アジア版NATO(北大西洋条約機構)」構想の実現を公言し、石破色を出している。アジア版NATOは「対中軍事同盟」を意味する。一方で、石破は「中国を最初から排除することを念頭に置いているわけではない」とも語っている(9/28産経新聞)。石破の真意はどこにあるのか。

 米国の対中戦略に、日本として言われるままに従うわけではないと主張したいのだ。「相対的に米国の力が低下していく中で、いかにしてこの地域の集団安全保障の仕組みをつくるか」と問題意識を語っているように、実質的に米軍の指揮下にある自衛隊の「自立化」をめざすことにある。

 総裁選の期間中に、米国の保守系シンクタンク「ハドソン研究所」に石破が出した外交政策に関する寄稿文(9/27ハドソン研究所公開)に、踏み込んだ表現がある。「米国は日本『防衛』の義務を負い、日本は『基地提供』の義務を負う」とする日米安全保障条約は不平等条約だと書き、「日米安保を『普通の国』同士の条約に改定する機は熟した」と言い切る。

 石破が日米を「対等なパートナー」とすることが自分の使命だとまで言うのは、中国を含めた東アジア地域への日本の直接投資残高が米国を上回る日本グローバル資本の権益が背景にあるからだ。



 石破は、中国軍機の領空侵犯(8/26)への警告対応を例に、正当防衛、緊急避難以外の武器使用を検討するという(9/29日経新聞)。国軍であれば、相手の動きを抑える「危害射撃」を「国家としての意志」として明確にする。これが石破の考える軍事的整合性なのだ。独自核武装につながる米核兵器のアジアへの持ち込みを容認する「核共有」論、「日米地位協定の見直し」も日米対等をめざす軍事的必然性ということだ。そして、国軍を明記する憲法改正も、石破の中では一連のことになっているのだ。

 軍事政策で石破はぶれない。ポイントとなるポストに防衛相経験者をそろえた事にも表れている。防衛相に中谷元(なかたにげん)、外相に岩屋毅(たけし)、党の政策立案の要、政調会長に小野寺五典(いつのり)。石破政権は米軍と対等な日本軍をめざす国軍化推進政権なのだ。


有権者の審判を

 石破政権は日本のグローバル資本の海外権益を守ることを売りにする政権だ。戦争国家づくりはいよいよ本性をむき出しにしてくる。経済の軍事化は新自由主義政策が生み出した格差と貧困を一層深刻化する。極めて危険な政権をすぐにも倒さなければならない。

 自民党に先駆けて代表選挙を行った野党第1党の立憲民主党。代表となった野田佳彦は自民党の改憲、軍拡、経済政策について違いはほとんどない。石破政権との対決軸は明確にはならない。だが、政策を転換するには、自公政権を倒さなければならない。軍事費を削れ。教育、社会保障を充実せよ。市民の要求、政策合意に基づく市民と野党の共闘は野党候補を鍛え、政策転換への足掛かりとなる。

 石破を自民党総裁に選んだのは、ほんの全国70万人に満たない自民党員・国会議員だ。石破が得たのは20万票に過ぎない。一刻も早く、有権者1億人の審判を下そう。「裏金事件」をあいまいにしたままでいいのか。「統一教会」との癒着は断ち切られたのか。軍事力による外交でいいのか。問うべき争点は多い。「自公政権ではダメだ」と市民の怒りをぶつけよう。

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