2024年10月11日 1841号

【JR貨物・東日本のデータ改ざんは民営化の行きつく先だ/公共優先の政策転換で安全維持を】

 JR貨物で車輪検査データの改ざんが発覚したのに続き、同様の事例が各鉄道会社で相次ぎ明るみに出ている。だが大手メディアの報道では論点がはっきりしない。何が起きているのか。

自社基準さえ守らず

 列車の車輪に車軸をはめ込む作業をめぐって、基準値を超える圧力がかけられたのに基準値内に収めたようにJR貨物が数値を書き換えていたことが9月10日に判明。同社は、翌11日に全国すべての貨物列車の運行を取りやめた。改ざんが行われていないことが確認された列車から徐々に通常運行に戻したが、現在も全列車の1割が通常運行に戻っていない。

 その後もJR東日本、東京地下鉄、京王電鉄など大手鉄道会社で同様の不正が見つかっている。

 今回、問題になった輪軸とは、車輪中央の穴に車輪をはめ込んで組み立てた重要なものだ。車両の重量を直接受け、支える役割を担うため、その検査不正は危険な事故に直結する。

 組み立て作業は穴の内径より軸の直径の方がわずかに大きいため、強い力をかけて押し込む。だが、強すぎれば微細な傷が付いて破断の原因になりかねず、逆に弱すぎれば車軸が緩んで外れる恐れがある。強すぎず弱すぎず適切な数値となるよう各社が基準を定める。





 JR貨物は、メディア取材に「基準値はあるにはあったが、組み立て作業場の貼紙や、担当者同士のマニュアルにだけ書かれていた。基準値を超えた場合にどうするかの社内通達すらなく、口頭で引き継がれてきた」と言う。基準値を超えた輪軸が使用不可能になれば作り直しとなる上にコストもかかる。安全より利益の姿勢が不正の温床となったことは容易に推測できる。

 JR貨物以外の各社も「新しく入る作業員に指導員から口頭で伝承され、作業員は改ざんに疑問を持たなかった」(東京地下鉄)。大事故に直結する重要な基準なのに考えられないずさんな取り扱いだ。しかも自社で定めた基準さえ、データ書き換えにより、守られていなかったことになる。

現場力低下 国は放置

 今回の不正が発覚したきっかけは、今年7月、山陽本線新山口駅で起きた貨物列車の脱線事故だ。過去、JR北海道によるレール検査データ改ざんも脱線事故を契機として判明した。

 国土交通省は、データ改ざんを行ったJR貨物・JR東日本に立入調査を行った。「素早い対応」を印象づける狙いがあるが、そもそも今回、問題となった車輪の組み立て時の圧力値について、国は基準を定めていない。超えた場合の罰則や処分の規定もない。

 鉄道事故の調査を行う運輸安全委員会の松本陽(あきら)・元鉄道部会長は「基準値から外れた場合にどの程度危険なのか、現場も管理者も経営陣も理解していない」と懸念を示す。

 9月19日には、東北新幹線を時速315`bで走行中の新幹線「はやぶさ6号・こまち6号」の連結器が外れ、両列車が切り離される事故が発生した。連結器を操作するスイッチ内部に金属片が混入したことが原因と判明している。

 新幹線が自然災害以外(JR自身のミス)で止まるのはこの2024年だけですでに5回目だ。保線車両の衝突、故障などJRにとって直接、利益に結びつかない部分が原因となる事例が多い。JRが「乗客の目につかない部分」から安全無視の経費削減を進めている実態が見えてくる。

安全無視の経費削減

 JRに限らず多くの鉄道会社が、新型コロナ禍で利益が大幅に低下したことを経費削減の理由にしている。だが、JR本州3社はコロナ禍中も、なお5兆円も内部留保を抱え、また新型コロナの5類移行で行動制限がなくなって以降、乗客は多くの鉄道会社で9割程度まで回復している。安全無視の経費削減や、地方住民の生活を無視したローカル線廃止を強行する理由はどこにも見当たらない。

 鉄道会社をこのような利益優先、安全・地方軽視に走らせている理由は、国が鉄道をバックアップせず民間企業の経営論理に委ねたまま放置しているからだ。鉄道を公共財として位置付けきちんと維持する政策への転換がなければ、大事故の発生は避けられない。
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