2024年10月18日 1842号

【イスラエル「永久戦争」の構え/「イラン核施設爆撃」を口にするネタニヤフ/「対テロ戦争」の虚構許すな】

 イスラエルのガザ攻撃から1年。ネタニヤフ政権はパレスチナだけでなく、レバノン、イエメンなどの周辺国を爆撃。イランに対しては核施設攻撃さえ口にしている。明らかな侵略戦争であるにもかかわらず、米国をはじめ主要国政府はイスラエルを非難しない。何万人にものぼる市民を殺害しているイスラエルを止めようとしないのはなぜか。イスラエルの主張する「対テロ自衛戦争」に同調し、イスラエル非難は「反ユダヤ主義」との立場をとるからだ。

「7つの戦線」

 イランはイスラエルが実行した自国内でのハマス幹部の殺害などに対する「報復」として180発の弾道ミサイルを撃った(10/2)。ネタニヤフ首相はそれへの「報復」として、イランの核関連施設や石油施設への攻撃を口にしている。イランは「イスラエルの攻撃があれば、さらなる報復を行う」と応じており、イスラエルの攻撃次第で全面的な戦争へと拡大する状況が生まれている。何としても止めなければならない。

 イスラエルはこれまでもイランが支援するイスラム組織への攻撃を続けている。レバノンではヒズボラ最高幹部を爆殺(9/27)し、地上部隊を侵攻させた。殺害されたヒズボラ最高幹部は停戦に同意していたと報道されている(10/2CNN)。

 イスラエルのレバノン爆撃は昨年のガザ侵攻とほぼ同時に始まり、1年間で死者は2000人を超え、負傷者も1万人以上に至っている。避難民は120万人以上(10/4)。人口の5分の1を上回っている。

 イエメンのフーシ派、シリアやイラクのイスラム組織も攻撃対象としてきた。ガザ地区、ヨルダン川西岸地区と合わせ、「7つの戦線」(ネタニヤフ9/27国連総会演説)に拡大している。

 1年前、イスラエル国内の退陣要求デモに追いつめられていたネタニヤフ政権は戦争を継続することで支持率を上向きにし、かろうじて政権を維持している。ネタニヤフにとって「永久戦争」態勢が必要なのだ。


主要国も同調

 「永久戦争」を維持する名目は何か。イスラエルは「戦争はテロから自国を守る自衛措置だ」と主張している。ハマスやヒズボラなどは「テロ組織」であり、それらを支援するイランは「テロ支援国」。その勢力が存在する限り戦闘態勢を維持し続けることができる。

 これは、2001年9・11事件後、米国が起こしたアフガニスタン戦争、イラク戦争の時に掲げた名目とまったく同じである。実際、イスラエル戦時内閣もハマスの攻撃を「イスラエル版9・11」だと強調した。

 米政府は、9・11はイスラム組織アルカイダが犯人であり、その「支援国」と決めつけたアフガニスタン、イラクへの侵略を正当化した。以後、「対テロ戦争」は主要国の侵略行為を正当化する「論理」となり、軍拡の根拠ともなった。

 主要7か国(G7)首脳が出した声明(10/3)を見ればよくわかる。声明はイランに対し「最も強い言葉で非難する」もので、ハマスやヒズボラを動員し中東全域を不安定化させるな、とするものだった。イスラエルのレバノン攻撃には「深い懸念」を表明し、双方に「敵対的行為の中止」を呼びかけるのみだ。日本を含む国連安保理非常任理事国10か国の共同声明(10/4)も「暴力の連鎖を非難する」との見方を示し、実質的にイスラエルの侵略行為を容認している。

「反ユダヤ主義」

 さらにイスラエルの「自衛戦争」を補強するのが、ユダヤ人差別を意味する「反ユダヤ主義」というレッテル貼りによる口封じだ。

 「反ユダヤ主義」を象徴するものとして、ナチ・ドイツが行ったユダヤ人虐殺「ホロコースト」があることは間違いない。だが差別・虐待を受けたユダヤ人の安住の地イスラエルを守ることがユダヤ人差別に対する罪滅ぼしになる≠ニいうのは問題をすり替えるものだ。

 イスラム研究者板垣雄三東大名誉教授は「ナチスとシオニストは相互に利用しあう関係にあったことは、誰もこれを否定することはできない」と一貫して指摘している。シオニストはナチスと協力して、イスラエル建国に役立つユダヤ人青年を選別しパレスチナに送った。高齢者や子どもはガス室に送った。ユダヤ人の中で「白眼視される存在」だったシオニストは、ナチスのユダヤ人差別に助けられ、イスラエル建国が可能となったのだった。

 イスラエルに最も影響力を持つ米国では、「反ユダヤ主義」との口封じは大きな威力を発揮している。大統領・上下院選挙の投票日(11/5)が迫る中で、イスラエルに対する立場が勝敗を左右する状況も生まれている。ユダヤ系米国人は約750万人。米国の全人口の約2・4%と票の数は多くはない。だが、巨額の選挙資金を投入し、メディアを支配するイスラエル・ロビーはパレスチナを支援する候補者を「反ユダヤ主義者」と決めつけ落選させている。

全世界で抗議行動

 その一方で、「反ユダヤ主義」の虚構に気づく若者が増えている。米ユダヤ系社会の中でも、若い世代はパレスチナを支持する割合が半数を超えている。「中高年の世代はホロコーストの被害にあったユダヤ人への共感があるが、若い世代はそうした価値観は崩れている」との見方がある(10/4毎日新聞)。ガザでのジェノサイドの実態をSNSで知る若者には、イスラエル・ロビーのメディア操作は役に立たないということだ。



 イスラエルのガザ侵攻1年を期して、全世界でイスラエルを非難する行動が連続して取り組まれている。「ガザ戦争即時停戦」とともに、「イランとの戦闘拡大反対」「レバノンに手をだすな」などのスローガンが掲げられている。

 イスラエルの行為は「自衛戦争」ではない。侵略そのものだ。入植型植民地支配であり、紛れもない「パレスチナ人浄化」のジェノサイドなのである。イスラエル批判と「反ユダヤ主義」はまったく別の問題なのだ。

  *  *  *

 日本政府は、レバノンに滞在する約50人の日本人「救出」のために、航空自衛隊と陸上自衛隊で編成された約500人の統合任務部隊を派遣している。既に日本人11人を含む16人をヨルダンに輸送した(10/4)。

 「邦人救出」は参戦のきっかけとなる。「戦闘地域」周辺にイスラエルを支持する日本の軍隊が駐留し続けている。米軍はイランとの戦争に備え東地中海に空母打撃群を送っている。軍事的な緊張を高めていることは間違いない。

 戦闘を避けレバノンを離れる日本人は軍用機に乗る危険性を承知しているのだろうか。日本政府がしなければならないことは、自衛隊を送るのではなく、イスラエルの侵略行為を止めることに全力を尽くすことではないのか。一人のレバノン人も、一人のパレスチナ人も殺させてはならない。

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