2024年10月18日 1842号

【急拡大するスキマバイト(スポットワーク)=^究極の非正規低賃金労働/寄生する貧困ビジネス】

 石破首相が労働分野について所信表明で述べたのは、岸田政権継承の「自由な働き方を選択」などの名による、不安定な非正規雇用のさらなる推進だ。総選挙で、非正規撤廃、労働者の権利を守れと求めるときだ。

 非正規労働をいま急拡大させている働き方が、空いた時間に短時間労働し報酬を得る「スキマバイト(スポットワーク)」だ。スマートフォンのアプリ一つでできる「自由な働き方」との宣伝だが、労働者からは懸念の声が上がり、トラブル事例も増えている。

 株式会社KiteRa(社内規程作成クラウドサービス会社)は4月、スキマバイトを経験したことがある20歳代以上の348名を対象に実態調査した。調査の結果、5割以上が勤務先でトラブルにあったことがあると回答し、そのうち約5割は仕事内容が事前に聞いていた内容と異なると答えた。

 労働基準法ではスキマバイトにも労働条件通知書を交付する必要があるが、仕事を開始する際に勤務先から労働条件通知書が送られてこなかった経験がある人が5割以上。また、1割弱は通知書内容を全く読まず、3割以上が読んでも内容を理解できないと回答した。

体験からの告発

 7月20日、「非正規労働者の権利実現全国会議」の講演会で、スキマバイトで働く池田真一さんが自身の体験談を交え、訴えた。

 「あるクリーニング工場で十数回働いたが、工場側の都合で何度も業務を早く切り上げさせられた。募集時点では8時間労働のはずが、当日になって6時間になることが続いた」。求人企業と求職者がそれぞれアプリに登録し、短期間、単発のバイト契約を直接結ぶのがスキマバイト。業務終了後にアプリで企業への評価コメントを書き込むと賃金が支払われる。池田さんは「『早上がりが続くと困る』と評価に書き込んだところブロックされ、求人が届かなくなった」と明かす。

 別の男性労働者も「多少の不満があっても言えないし、泣き寝入りするしかない構図。企業と労働者個人との力関係が露骨に表れるのがスキマバイトだ」と言う。アプリでは企業側、労働者のレビューが公開されているが、「正当な評価ではない」と指摘する。

 スポットワークは、仲介業者最大手のタイミーなどがスマートフォンアプリを使ったサービスを始めた2010年代後半から急速に広がった。24年9月で、スポットワークサービスの登録会員数は単純合計で2500万人。その3〜4割が正社員で勤めながら副業として働く。3割がアルバイトやフリーランス、残りを学生らが占める。

 受け入れる企業も急増している。タイミーの法人会員は約4万社にのぼる。多くの企業は、スポットワーカーをアルバイトを確保できない場合の補充的労働力と位置づける。仕事も単純労働が中心だ。


日雇派遣酷似のピンハネ

 スポットワークは、12年の派遣法改正で禁止された日雇い派遣とそっくりだ。タイミーは「合法」と主張するが、ではどのように儲けているのか。それは、アルバイトが働いた後に受け取る賃金の30%相当額を、求人企業に請求するというものだ。

 たとえば、企業がタイミーを通じて時給1000円で求人募集をかけ、アルバイトが応じたとする。5時間働いたとしたら、即日でタイミーがアルバイトの人に5000円を支払う。その後、タイミーはアルバイト先の企業に対し時給に30%上乗せして報酬を求める。先の例で言うと、5000円×1・3=6500円を企業に請求。うち5000円が立替金で、残る1500円が売り上げとなる。労働者が働けば働くほど、タイミーには賃金の30%相当の手数料が入る。これは派遣の場合と同じ構造だ。

 こうした日雇い派遣まがいの手法がまかり通るのは、経済競争力強化法に基づく「グレーゾーン解消制度」で厚生労働省に質問を送り、合法的である旨の回答を得たとしているからだ。


続発する権利侵害

 しかし、スポットワーカーの賃金は最低賃金に近く、同じ企業で働けるのは月額7万円余りに規制(企業が社会保険料負担なし)されている。これだけでは生きていけない究極の非正規労働だ。労働者は”タイミーさん”と呼ばれ、権利侵害が後を絶たないが、自己責任で片づけられる。

 こうした低賃金労働者に寄生し、労働者が働けば働くほどピンハネができるこの雇用形態は反社会的な貧困ビジネスと言える。
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