2024年11月01日 1844号

【ガザをめぐる被団協幹部発言/イスラエル大使がいちゃもん/無差別殺戮という共通点】

 今年のノーベル平和賞に選ばれた日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)。その代表委員の発言をイスラエルの駐日大使が批判した。現在のパレスチナ自治区ガザの惨状を80年前の被爆地に重ねることは「不適切かつ根拠に欠けている」と言い放ったのだ。

ノーベル平和賞の背景

 ノルウェー・ノーベル委員会は10月11日、今年のノーベル平和賞を日本被団協に授与すると発表した。被爆者たちが「核兵器のない世界の実現に尽力し、核兵器が二度と使われてはならないことを証言を通じて示してきたこと」を高く評価しての授賞である。

 日本被団協の箕牧智之代表委員は「私たちの大先輩が長年運動をされてきた結果ではないかと思う」と喜びを語った。その一方で、「世界のいろんな所で戦争が始まっている。ガザで傷つけられた子どもたちを一生懸命救っている人たちがノーベル平和賞の候補かなと思っていた」という心境を明かした(10/11報道ステーション)。

 実際、欧米のメディアは国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)を平和賞の本命視していた。イスラエルによるパレスチナ占領は国際法違反との勧告的意見を出した国際司法裁判所(ICJ)も有力候補に上っていた。

 もしUNRWAやICJが選ばれていたら、イスラエルは猛反発していただろう。イスラエルはUNRWAをイスラム組織ハマスの「隠れ蓑」とみなしており、同機関が運営する学校や病院をくり返し空爆している。UNRWAをテロ組織と認定し、活動を禁止する法案も国会で審議中だ。

 英BBCは今回の平和賞選考について「議論を呼ぶ候補を避ける」判断だったとの見方を示した。イスラエルやその後ろ盾である米国に配慮した政治的判断だったというわけだ。

原爆と比較「不適切」

 ノーベル委員会の思惑はさておき、被爆者たちはイスラエルの攻撃にさらされるガザ地区の状況を憂いている。前述の箕牧・被団協代表委員がそうだ。箕牧さんは「子どもが血をいっぱい出しているのは80年前の日本と重なる」と語った(10/11)。ガザの子どもたちと「原爆孤児の姿が重なる」と言うのだ。

 この発言にイスラエルのコーヘン駐日大使がかみついた。X(旧ツイッター)への投稿で「ガザと80年前の日本との比較は、不適切かつ根拠に欠けている。このような比較は歴史を歪曲し、テロの犠牲者をおとしめることになる」と批判したのである。

 「ガザはハマスに支配されている。ハマスは女性や子どもを含むイスラエルの民間人を標的にしながら、ガザの市民を人間の盾にするという二重の戦争犯罪を犯すテロ組織だ」。だから子どもの犠牲が出ても、それはハマスの責任だと言いたいのだろう。

 この種の言い訳は聞き飽きた。イスラエル軍は明らかにガザ市民を標的にした殺戮をくり広げている。死者は4万人を超え、このうち1万6千人以上が子どもとされる。国連児童基金(UNICEF)のエルダー報道官は「この世の地獄そのものだ」と指摘する。

 イスラエル軍は殺傷能力を高めた砲弾を住宅密集地で使用している。この砲弾が炸裂すると、硬度の高い金属の細かなかけらが周囲に飛散。人びとの皮膚を突き破って体内に入り筋肉や内臓を引き裂く。

 ガザの勤務医によると、とりわけ子どもの被害者は血管や神経が損傷し、手足を切断せざるを得ないケースが多いという(10/13毎日)。発想的には原爆と同じ、市民の無差別殺戮を狙った兵器をイスラエルはガザで使っている。かつての広島、長崎の惨状と重なり合って見えるのは当然だ。

閣僚の核使用発言

 イスラエルは核兵器の保有について否定も肯定もしない「あいまい戦略」をとっているが、ストックホルム国際平和研究所によると、2022年1月時点の推計で90発の核弾頭を保有しているとされる。朝鮮民主主義人民共和国の20〜30発を上回る数だ。

 昨年11月、極右政党に所属する閣僚(エルサレム問題・遺産相のアミハイ・エリヤフ)が、ガザに核爆弾を落とすのも「選択肢の一つだ」と発言し、物議を醸したことがあった。広島での被爆体験をイスラエルの3都市で話した経験を持つ杉野信子さんは「使えば自分の国も地球も駄目になるのに。何も知らなすぎる」と憤った。

 バイデン米大統領は被団協のノーベル平和賞受賞決定に祝意を示し、「核なき世界」の実現に向けた決意を語ったが、それを言うならイスラエルという核武装国家への軍事支援をただちにやめるべきだ。日本政府もしかり。イスラエルとの軍事協力関係を解消しなければならない。(M)

MDSホームページに戻る   週刊MDSトップに戻る
Copyright Weekly MDS