2024年11月15日 1846号
【いたるところで軍事演習/対中国軍事挑発する日米政府/政権への怒りを軍拡阻止へ】
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日米政権に市民の怒りが向けられている。自公政権は衆院過半数割れ、米国バイデン政権は民主党政権の継続が危うくなっている。現政権への批判は、英、仏など欧州も含め噴き出している。グローバル資本主義が招いた深刻な格差と貧困が背景にあることは間違いない。こうした時、権力が常に考えることは「敵」をつくり、「国家の危機」を演出し、求心力を取り戻す危険な手だ。
「戦場」をつくりだす
まるで戦場だ。戦闘機や軍艦が行きかうだけではない。市民の生活の場を戦場にする訓練が行われている。日米共同統合演習「キーン・ソード25」(10/23〜11/1)。日米両軍4万5千人の兵士、数十隻の軍艦が集結し、400機近い戦闘機が飛び交った。過去最大規模だ。
攻撃を受けた滑走路の修復、離島からの負傷者搬送など「戦場」となることを想定した演習を繰り広げた。CBRN(化学・生物・放射性物質・核)兵器による攻撃に対応する訓練も行っている。
さらに今回、民間施設の利用へと踏み込んだ。宮崎空港では鹿児島から海上自衛隊哨戒機が飛来、給油訓練と称し、民間機と並んだ。長崎空港には福岡から航空自衛隊の戦闘機4機が次々に着陸した。熊本、奄美大島、徳之島の空港、沖縄の空港・港湾も使った。
その中で、陸上自衛隊のオスプレイが沖縄・与那国駐屯地からの離陸に失敗し、機体を損傷した。事故と隣り合わせの欠陥機を使用すること自体危険極まりない。
こうした大軍事演習が衆院選挙の投票日を挟んで行われていたことを大手マスコミはほとんど報じていない。まるで戦時の報道統制に協力しているようではないか。
この日米軍事演習の「敵」は明らかに中国だ。「台湾有事」を最大限あおり、日常生活の中に「中国の脅威」を刷り込もうとしている。大演習は軍事緊張を高める威嚇であり、市民には戦争への抵抗感を薄れさせる極めて危険な動きである。
つくられた「台湾有事」
この「中国脅威」や「台湾有事」は日米政府が仕掛けたものであることを改めて確認しておこう。
今年5月、台湾総統頼清徳(ライチントー)は就任演説で「中華民国と中華人民共和国は互いに隷属していない」と台湾独立を強調した。10月の国慶日には「中華人民共和国に台湾を代表する権利はない」と「一つの中国」を否定する「二国論」を繰り返した。この演説は「米国によって事前に精査された原稿を読み上げたものだ」(台湾労働党ツァン・ルーシン)と指摘されている。米政権が挑発行為をコントロールしているのは明らかだ。中国は即、台湾を取り囲むように軍事演習で対抗した。
中国との経済摩擦を軍事的対立へと変えたのはバイデン政権だった。21年3月、中国を「長期的な唯一の戦略的競争相手」と「国家安全保障戦略」に書き、米国議会の公聴会で当時のインド太平洋軍司令官が「6年後以降に台湾有事のリスクが高まる」と発言した。「台湾有事」はそれからだ。
便乗する日本
日本が中国との緊張を急速に高めたのは2012年、民主党野田佳彦政権(当時)が尖閣諸島を国有化したことからだ。野田は、中国との「領土問題は将来解決する」合意を反故(ほご)にした。中国は硬化し、関係は悪化していった。
この関係悪化を第二次安倍政権は軍拡促進の「燃料」にしたのだ。米国側から「台湾有事」の言葉が出るや、安倍首相が「台湾有事は日本の有事」とあおり、22年版防衛白書に初めて「台湾有事」を載せた。
岸田政権が書き換えた軍事(安保関連)3文書は、中国の軍事的脅威を最大限利用し、5年間で軍事費倍増を掲げた。「敵基地攻撃用ミサイル」など、対GDP比2%の水準に引き上げることを目標に定めた。
安倍・菅・岸田政権の「外野」にあった石破は、「中国の台湾への武力侵攻の可能性はそう高くはない」とインタビューに答えている(23年6月16日東洋経済オンライン)。「『今日のウクライナは明日の台湾』は論理飛躍だ」と情緒的な危機の扇動を批判していた。
では石破の軍拡の論理は何か。朝鮮民主主義人民共和国(朝鮮)のミサイル能力や中国の海軍、宇宙、サイバー攻撃の能力に触れ、「北東アジア、インド・太平洋の軍事バランスが大きく崩れつつある」との石破的表現で、朝鮮、中国、ロシアの核保有国に囲まれた状況に危機感を表している。中・ロ・朝鮮とのバランスを保とうとすれば、核戦略を含めた軍拡競争になる。あくまでも軍事力による対抗をやめることはない。
ASEANは"中国敵視"拒否
石破軍拡はすぐにも行き詰まる。
石破の中心的軍事戦略「アジア版NATO(北大西洋条約機構)」。その成否はASEAN(東南アジア諸国連合)との軍事的同盟関係が構築できるかどうかにある。
臨時国会を解散した翌日、石破はASEAN+3首脳会談に出かけた。+3は日本、中国、韓国。1997年のアジア通貨危機を契機に、定期的にASEANと首脳・外相会議が持たれている。
今回、石破は「法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序の維持」と岸田政権定番の表現であいさつをしただけで、持論を封印、顔つなぎに徹した。石破の「アジア版NATO」構想は、中国との関係を深める国も多いASEANでは、分断を持ち込むものと極めて評判が悪いからだ。
実際、インドネシア、マレーシア、タイ、ベトナムの4か国は、中国・ロシアが主導するBRICS首脳会議(10/22〜10/24)に参加している。BRICSは今年1月に5か国から9か国へメンバーを拡大し、世界のGDPの28%をしめるまでになった。この他にパートナー国が13。ここにASEAN4か国が入った。参加国の思惑はそれぞれだが、少なくとも「中国敵視」の立場にはない。
もうひとつの石破の軍拡の論理は米軍と対等な日本軍創設だ。米国第一主義のトランプは、在日米軍の駐留経費の日本負担の増額とともに一層の軍拡を迫ってくる。「自国は自国で守る」石破にとっては好都合だ。実際、トランプは台湾に向け「軍事費を現在の対GDP比2・6%から10%に引き上げるべきだ」と述べている(ワシントンポスト9/30)。ハリスはバイデン政権の路線、「日米同盟強化」を維持する。
「軍需で利潤」はノーだ
改めて問おう。南の与那国島から北海道まで、日本列島、沖縄・琉球弧をすべて中国に向けたミサイル基地にすることがどれほど異常で危険なことか。石破政権の軍拡路線にノーを突き付けよう。
パレスチナで、ウクライナで、グローバル資本は権益争いを軍事対立へとエスカレートさせた。人殺しと破壊に利益を見出す腐敗した資本主義ではなく、平和に人間らしく生きることのできる民主主義的社会主義へと社会を変えなければならない。 |
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