2024年11月15日 1846号

【メディアの総選挙分析を検証する/立憲「現実路線で増」ではない/政権交代への鍵は野党共闘】

 自民、公明が大幅に議席数を減らし、過半数割れした衆院選。選挙結果を受け、様々な分析がメディアをにぎわせている。「立憲は現実路線が支持された」「国民民主は生活重視で若者に人気」といったたぐいである。これらは妥当な評価といえるのか。

比例は横ばいの立憲

 政党名で投票する比例代表の得票数・得票率は、各党の党勢を顕著に反映するバロメーターといえる。まずは、このデータを頭に入れておこう(表参照)。

 自民党は前回2021年から533万票減の1458万票に落ち込んだ。衆院選に比例代表を導入して以降、最も少ない得票数である。連立を組む公明党も115万票減らし、過去最少の596万票だった。

 大幅減は与党だけではない。日本維新の会は511万票で前回から294万票も減った。吉村洋文・共同代表(大阪府知事)は「大阪以外で自民批判の受け皿になれなかった」と総括したが、実は大阪府でも56万票減らしている。

 機関紙「しんぶん赤旗」が自民党の裏金問題をめぐるスクープを連発した共産党は336万票にとどまった。立憲候補のいる選挙区も含めて独自候補を多数擁立し、比例票の掘り起こしを狙ったが、結果は81万票の減であった。社民党は9万票減らした。

 立憲は全体の議席獲得数では躍進したが、比例代表の得票数をみるとそれほど増えていない(7万票増)。大きく伸ばしたのは国民民主党である。前回の259万票から倍以上増えて617万票を得た。れいわ新選組は159万票増やし、得票数(381万票)で共産党を上回った。

 参政党と日本保守党はいずれも100万票以上を得て、複数の議席を獲得した。日本保守党は政党助成法上の要件を満たし、国政政党となった。

成果をあげた共闘

 以上のデータが物語るのは、生活悪化にあえぐ市民の自公政権に対する激しい怒りである。とりわけ、裏金議員に対する拒絶反応はすさまじく、野党が候補を一本化しなかった選挙区でも、野党候補が裏金前職を破るケースが相次いだ。

 立憲は小選挙区では自民に対する批判票の受け皿となった。とはいえ比例代表の得票数が示すように、党に対する支持(すなわち政策面での評価)が広がったわけではない。

 よって「穏健保守路線、批判票集める」(10/28朝日)という評価は決めつけである。同じ日の読売新聞は政治部長の一面署名記事で「野田代表が、『原発ゼロ』をはじめとした非現実的な安全保障・エネルギー政策を封印し、共産党との連携に距離を置いたことが奏功したと言えよう」と書いたが、これは「読売」の願望にすぎない。

 立憲の後ろ盾である連合の芳野友子会長は「共産党と共闘しなくてもやはり勝てる」と豪語した。共産党の排除を正当化したいのだろうが、今回の衆院選でも「市民と野党の共闘」路線は成果をあげている。

 実質的に共闘の枠組みができていた新潟では立憲が全勝した。東京21区では、「立憲野党の統一候補」として市民連合が支える立憲候補が自民非公認の裏金議員を破った。愛知10区では、連合からの推薦を受けず、共産や社民との共闘姿勢を貫いた立憲の新人候補が初当選を果たした。

 一方、立憲、国民民主、維新、参政が候補者を立てた東京24区は、裏金議員の大物で統一教会べったりの萩生田光一・自民元政調会長の当選を約7500票の僅差で許す結果となった。

 共同通信社が今回の比例代表の票数をもとに、来年行われる参院選の試算をしたところ、野党候補を一本化すれば全国32ある1人区で与党は惨敗(3勝29敗)するという。現実路線と称して野党共闘を否定する言説は、自公政権の延命に手を貸すものでしかない。

国民民主の危険性

 読売新聞は極右政党が急速に伸長する欧州諸国との比較で次のように論じている。「今回の衆院選では急進的な主張をする勢力が一定の支持を集めたが、その広がりは限定的で、日本の有権者は、穏健な保守や中道路線を支持したとみて良かろう」(10/29社説)

 日本には欧州や米国で見られるような社会の深刻な分断はないのか。そんなことはない。世代間対立という分断を煽り、人気を集める手法は見慣れた光景になりつつある。今回の衆院選で言えば、議席数を公示前の4倍に増やした国民民主党が典型であろう。

 国民民主は「手取りを増やす」などの公約が若い世代に支持されたとされる。たしかに「税金と保険料が高いので若い人の手取りが増えていかない」という訴えはわかりやすい。だが、同党の玉木雄一郎代表は同じ文脈で恐ろしいことを述べている。

 「社会保障の保険料を下げるために、われわれは高齢者医療、特に終末期医療の見直しにも踏み込みました。尊厳死の法制化も含めて。こういったことも含めて医療給付を抑え、若い人の社会保険料を抑えることが消費を活性化し、次の好循環と賃金上昇を生み出すと思っています」(10/12日本記者クラブ主催の党首討論会での発言)

 “現役世代の負担を減らすために、老人は自ら死んでくれ”と言わんばかりの主張ではないか。批判を受け、玉木は「雑な説明だった」と釈明したが、同党の選挙公約パンフレットを見ると、尊厳死法制化は「現役世代・次世代の負担の適正化に向けた社会保障制度の確立」の項目の一つとして記載されている。

 国民民主は都知事選で2位に食い込んだ石丸伸二・前安芸高田市長のネット戦略を参考にしたというが、石丸流の「老害批判」も取り入れたようだ。財政問題に世代間対立を持ち込む主張は、医療や社会保障制度の縮小を正当化する。何より、今日の貧困化の元凶であるグローバル資本の責任を覆い隠すものだ。

 かつて玉木は「自民党のアクセル役になりたい」と語っていた。高齢の支持者が多い自民が言い出しにくい社会保障費の削減を「若者重視」と言い換え正当化する―。まさに自民の補完勢力であり、グローバル資本の代弁者の振る舞いと言うほかない。   (M)

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