2024年11月22日 1847号
【米国でも現政権が惨敗/労働者を見捨てた民主党 労働者が離反】
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米国の大統領選挙(11/5投開票)で政権を担う民主党が惨敗。上下両院議員選挙も共和党が制するトリプルレッド(赤は共和党のシンボル色)状態になった。いまやトランプ党ともいわれる共和党。2016〜20年の前政権以上に排外主義を強める可能性がある。だが、米国の労働者・市民は進んでトランプの政策を支持したわけではない。経済格差の拡大、生活破壊に対する怒りが民主党政権を拒否した結果なのだ。戦争と新自由主義からの転換。これが労働者・市民が求めるものだ。
大金持ちが支持
米大統領選は総数538人の選挙人を50州と首都圏の51の選挙区に割り当て、各選挙区1位の候補者が割り当てられた選挙人を総取りする仕組みだ(2州のみ得票に応じ分け合う)。
ほとんどの州は投票前から結果は決まったも同然で、勝敗は民主・共和両党の支持が相半ばする7州の動向による。前回(2020年)、5州で共和党から民主党へと勝者は変わった。今回、この7州すべてでトランプ候補が勝利した。
あわせて、上院(定数100、改選34議席)でも共和党が逆転し多数派に。下院(定数435、全議席改選)と合わせ、大統領、上下両院が共和党が支配する状態になった。トランプは前政権時に最高裁判事3人を任命し、保守派が多数派となっている。トランプは行政、立法、司法の三権を手にしたともいえる。
民主党指導部は、トランプを嫌う共和党支持者を取り込めば勝てると考えていた。実際、共和党員がハリスの支援集会に参加、支持を公言していた。「民主主義の危機」「女性の敵」などと刑事訴追・有罪判決を受けるトランプを攻めた。
CNNの出口調査によれば、確かにハリスは大卒の有権者層からはトランプを15ポイント上回る支持を得た。前回よりも多かった。年収10万ドル以上の富裕層からもトランプを5ポイント上回る過去最高の票を得た。大金持ち、エリートからの票を得たが、そのためにハリスは負けた。
経済格差に無策
ハリスの敗因は何だったのか。一言でいえば、民主党の支持基盤だった労働者の要求に応える政策が打ち出せなかったということだ。これまで民主党の大統領候補予備選で若者層から多くの支持を得たバーニー・サンダース上院議員(無所属)は大統領選の結果について次のような声明を出した(11/6)。「労働者階級の人びとを見捨てた民主党が労働者階級から見捨てられたのは驚くべきことではない。最初は白人労働者階級が離れ、今やラテン系や黒人の労働者がそれに続く」。サンダースは経済格差がより深刻になる中で、大金持ちや高給取りのコンサルタントに支配されている民主党は人びとの怒りや変化を求める声に向き合わなかったと批判している。
実際、経済政策を最重要課題と答えた人の80%がトランプに投票した。トランプの決めセリフ「4年前より生活はよくなったか」。確かに、バイデン政権4年間で物価は20%以上上がった。低所得者層にとって生活の悪化は深刻だ。
では、トランプの経済政策とはどんなものか。
石油・天然ガスの増産による価格引き下げ、法人税(35%を21%へ)、所得税(最高税率39・6%を37%へ)の引き下げ、輸入品への一律10〜20%の関税など。低賃金労働者に直接「恩恵」をもたらすものはない。むしろ、一律関税は輸入品価格を上げ、インフレ要因になるのは誰にもわかる。
つまり、経済重視の投票行動は「トランプ支持」というより民主党の経済政策に対する批判票なのだ。これは民主党の支持基盤であるラテン系労働者の変化によく表れている。民主党候補は前回61%、前々回(16年)66%の支持を得ていた。いずれも移民排斥発言を繰り返すトランプが相手だ。今回、ハリス支持は52%。10ポイント近く落とした。「人種差別者でも経済が良くなってくれればいい」。ドミニカからの移民はメディアの取材にそう答えている。
再び米国第一主義
2期目に臨むトランプは1期目同様「米国第一」を掲げ、よりトランプへの「忠誠心」が強いスタッフで固めるという。180億円もの寄付をした資本家イーロン・マスクも対象になっている。「ストライキをおこせば、全員クビだ」というトランプを支持する反労働者的立場だ。
マスクが経営する電気自動車テスラのライバルはシェア1位の中国。対中国政策はどうなるか。トランプは「一律60%の関税」を公言。1期目の「経済戦争」が再燃することになる。「台湾有事」はどうか。「米国第一主義」のトランプは台湾に軍事費の増額を要求している。1期目の時も「沿岸防衛システム」など約180億ドルの武器売買を決定している。
これが、トランプの軍需産業の利益を守る方法だ。同盟国は自国の軍事予算を拡大し、米国製兵器を買い入れろということだ。そのために「軍事緊張」は必要不可欠であり、継続されるだろう。
NATO(北大西洋条約機構)には、GDP2%水準の軍事予算を要請した。これを率先して実行したのが日本政府だ。実戦で兵器や弾丸を消費させなくても、米国製兵器を買わせる手立てがあるということだ。
パレスチナ問題はどうか(8面参照)。トランプは1期目の時、米大使館をテルアビブからエルサレムに移転し、パレスチナが首都として国家樹立を果たす願いをつぶした。2期目のスタッフには対イラン強硬派の名が上がっている。
トランプは戦争に反対しているわけではない。米国の財政を他国の支援に使いたくないというに過ぎない。緊張関係は維持し、台湾もウクライナも自分の金で戦えと言っているのだ。
民主主義的社会主義へ
闘いの方針は明確だ。サンダースが指摘するように、労働者・市民のための政策を打ち出すことだ。戦争と新自由主義、労働者・市民からの収奪の政策を転換させることだ。
成果は出ている。イスラエル・ロビイストがパレスチナ支援を公言する候補を孤立化させ落選させてきた中で、唯一のパレスチナ系下院議員ラシダ・タリーブが、ハリスの負けた激戦州ミシガンで再選された。彼女は米国最大の社会主義組織DSA(アメリカ民主主義的社会主義者)のメンバーである。中絶の権利を保障または拡大する提案の住民投票が10州で取り組まれ、7州で成立した。共和党が勝ったネバダ州などでも勝利している。DSAも支援した。
日本や欧米諸国など国政選挙が続いた2024年。世界中で現政権への批判が湧きおこった。グローバル資本主義への対案、民主主義的社会主義への転換が求められている。
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