2024年11月22日 1847号
【コラム 原発のない地球へ/いま時代を変える(10)/避難計画が必要なほど危険な原発を動かしてはいけない】
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原子力規制委員会が原発事故時の「屋内退避」のあり方を見直しているという。現行の原子力災害対策指針では、原発5`圏内は即時避難し、5〜30 `圏内はまず屋内退避するとしている。しかし、地震で家が倒壊したり、電気や水道が途絶えたりして、その場にとどまることが困難な場合もありうる。そんなことは当初からわかっていたことで、何を今さらと思うが、能登半島地震を機に「屋内退避」の非現実性が浮き彫りになり、見直すポーズを示さざるを得なくなったのだろう。だが地震・津波と原発事故の複合災害の場合、そもそも避難することができるのかを問い直さなければならないはずだ。
原発の「安全確保」は、第1層から第5層までという「深層防護」に基づくと言われる。第5層は、いよいよ放射性物質が外部に放出された場合にその影響を緩和するもので、ここに避難計画の策定が含まれる。原発から半径30 `の範囲について地元自治体が策定することになっており、新規制基準は避難計画を審査の対象としていないため、避難計画の不備を問題にしたい住民は差し止め裁判を起こすしかないのが現状だ。
水戸地裁は2021年3月18日、原発事故時の避難計画の不備を理由に東海第二原発の運転差し止めを命じる画期的な判決を出した。日本で避難計画の不備を理由に運転差し止め判決が出たのは初めてのことだ。ここにも自分の頭で考える裁判官が居たと喜んだのだが、2023年5月24日仙台地裁は女川原発2号機の運転差し止めについて「原告側が放射性物質放出事故発生の具体的危険性を主張立証しない限り、避難計画の不備を判断する必要がない」として訴えを棄却した。これはまたひどい判決だ。
原子力規制委員会の更田豊志前委員長が「過酷事故は起きるというふうにお答えした」と国会で答弁したように、もともと避難計画は過酷事故が起きる前提で立案されている。裁判所は事故が起きる前提で避難計画の実効性を判断すべきなのだ。
仙台地裁判決は、井戸謙一弁護士のたとえ話≠拝借すれば、救命用具を積んでいない船舶(船舶安全法違反)の航行差し止め裁判で、裁判官が「まず海難事故が起きる具体的危険があることを立証せよ」と言って、違法性の審理もせずに船舶の航行を認めるようなものだ。こんな無茶な論法でしか原告側の主張を退けることができなかったのだろう。
そもそも避難計画を策定しなければいけないほど危険な原発を動かすことに問題があるのだ。
東北電力は10月29日、その女川原発2号機の再稼働を強行した。しかし、11月3日、本格発電に向けた作業中に機器に不具合があったとして運転を停止した。原因を調査中という。11月27日に仙台高裁で女川原発差し止め訴訟の控訴審判決が言い渡される。注目しよう。
(U)
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