2024年11月22日 1847号
【パレスチナ情勢 トランプ再登板でどう動く/前回はイスラエルべったり/ガザ破壊の加速を促すおそれ】
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「イスラエルがホワイトハウスに抱える最高の友人」。かつてイスラエルのネタニヤフ首相は米国のトランプ前大統領をこう評していた。そのトランプが大統領の座に帰ってくる。パレスチナ・中東情勢はどうなるのか。前回政権時の政策を検証する。
イスラエルのネタニヤフ首相は11月6日、X(旧ツイッター)に「史上最大のカムバック、おめでとう」と投稿し、トランプ前米大統領の「当確」を祝した。「ホワイトハウスへの歴史的な復帰は、米国の新たな始まりであり、イスラエルと米国の同盟を力強く再確認するものだ。これは大勝利だ!」。まさに手放しの喜びようである。
ネタニヤフが期待するのは、パレスチナ自治区ガザやレバノンなどへの軍事攻撃にフリーハンドのお墨付きを得ることだろう。実際、トランプは今年3月に行われたインタビューで、イスラム主義組織ハマスの掃討作戦を「仕上げるべきだ」と述べ、早期「達成」を促していた(3/30読売)。
トランプとイスラエルの蜜月ぶりは前回政権時に行ってきたことをみれば明らかだ。もちろん歴代米国政府の立場は一貫して親イスラエルである。それでもパレスチナとの和平交渉の場面では「中立的な調停役」に見えるように振る舞ってきた。トランプは違う。イスラエルの庇護者として、パレスチナ側に一方的な譲歩を迫ってきた。
エルサレムを首都認定
手始めは、エルサレムをイスラエルの首都として認定したことである。通常、大使館は接受国の首都に置かれるが、イスラエルの場合、同国が首都と定めるエルサレムに各国は大使館を設置してこなかった。エルサレムの法的地位が国際的に未確定なためである。
ユダヤ教、キリスト教、イスラム教の「聖地」が所在するエルサレムは、帰属や管轄権をめぐる争いが続いてきた。第一次中東戦争(1948年)の結果、エルサレムは東西に分断され、西側がイスラエル領、東側がトランスヨルダン(現ヨルダン)領となった。
第三次中東戦争(1967年)に勝利したイスラエルは東エルサレムを領土として併合した。1980年7月にはイスラエル基本法を制定。エルサレムが「永遠の首都」であることを宣言した。これに対し、国連はエルサレムの法的地位を変更する行為を国際法違反で無効とみなす安保理決議を採択した(476号及び478号)。
この決議を受け、各国はエルサレムに大使館を置くことをやめた。ところがトランプはエルサレムを首都として認定すると発表し、テルアビブにあった米国大使館の同地への移転を断行した(2018年5月)。これを境に、米国とパレスチナの関係は悪化の一途をたどることになった。
世紀のディール
次の暴挙は、「世紀のディール(取引)」と自画自賛した中東和平構想の押しつけである。トランプの娘婿で、熱心なシオニストであるクシュナー上級顧問らが立案した構想の実態は、経済支援と引き換えに(資金は湾岸諸国が拠出し、米国は負担しない)、パレスチナ側に事実上の全面屈服を迫るものであった。
具体的には▽ヨルダン川西岸地域の約30%(ヨルダン渓谷、死海沿岸、全入植地)をイスラエルが併合▽パレスチナ国家の樹立後も、航空管制や国境監視などの権限はイスラエルが握る▽パレスチナ国家の「首都エルサレム」は市の周辺地域に限定。旧市街地を含むエルサレムの最も重要な市域はイスラエルが支配を継続する▽パレスチナ難民のイスラエル領内への帰還は認めない、等々。
まるでイスラエルの「欲しいものリスト」を写したかのようなプランである。一方的かつ国際的正統性を持たない提案をパレスチナ側が拒絶したのは当然だ。だが、ほとんどのアラブ諸国は明確に反対せず、パレスチナ民衆を失望させた。
アブラハム合意
2020年9月、イスラエルはトランプ政権の仲介により、アラブ首長国連邦(UAE)とバーレーンとの間で国交正常化に合意した。同年末までにスーダンとモロッコとも同様の合意に達した。一連の合意は、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教にとって共通の預言者の名にちなみ、「アブラハム合意」と呼ばれる。
合意当事者のアラブ諸国は米国から見返りを得た。UAEは無人攻撃機や空対空ミサイルなど米国製最新兵器を入手できるようになった(F35戦闘機の売買協議は停止されたが、トランプ再登板で再開の見込み)。スーダンは「テロ支援国指定」を解除された。
中東最大の産油国サウジアラビアも、米国を仲介役として、イスラエルとの国交正常化に動いていた。時間の問題とされていた合意を阻止することがハマスがイスラエルに奇襲攻撃を仕掛けた動機の一つと指摘されている。パレスチナ問題が置き去りになることを恐れたというわけだ。
このほかにも、パレスチナ解放機構(PLO)のワシントン事務所を閉鎖したり、国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)への資金拠出を停止したり、第一次トランプ政権はパレスチナ側に圧力を加え続けた。そのことで民衆の生存権が著しく脅かされることに、トランプ個人は何の関心もないようだ。
パレスチナ連帯の時
今回の米大統領選挙では、「私が戦争を止める」と豪語するトランプに期待票を投じた有権者がアラブ系住民を含めかなりいた。しかし「ジハード(聖戦)主義者に同調する者を国外追放する」(10/7)と語るトランプが、国内のパレスチナ連帯運動への弾圧を強化することは目に見えている。
トランプ流の強権発動を許さぬ市民の国際連帯が今こそ必要だ。 (M)
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