2024年11月29日 1848号

【これは無理だわ マイナ保険証/政府も認めるトラブルの拡大/健康保険証廃止を撤回せよ】

 12月2日から現行の健康保険証の新規発行がなくなる。マイナンバーカードの取得・使用を政府が促しているためだ。だが、「マイナ保険証」はトラブル続きで利用が増えず、現行保険証廃止への不安が広がっている。ゴリ押ししても無理なものは無理なのだ。

政府広報の変化

 「まだ、マイナ保険証をお持ちでなくても、これまでどおりの医療を、あなたに」。こんな大見出しを掲げた政府広報を最近目にするようになった。保険診療は「資格確認書」でも受けられる。今の保険証は有効期限まで使える。だから安心してください―と言いたいのだろう。

 実際、厚生労働省の担当者は「不安払拭のために現行の保険証が使えることを周知徹底する」と明言した(10/31社会保障審議会の医療保険部会での発言)。マイナ保険証を持っている人を含め、被保険者全員に資格確認書を発行することを検討している健康保険組合・自治体もある。

 そんなにトラブル拡大が怖いのなら現行の健康保険証を残せばいいのである。保険証とほぼ同じ情報を記載した資格確認書を全員に配るなんて、コストと手間の無駄というものだ。


制度設計に欠陥

 開業医の6割が加入する全国保険医団体連合会が行った調査をみると、回答医療機関の約7割が5月以降もマイナ保険証に関するトラブルがあったと回答した。「毎日のように機器の不具合がおきる」「通信回線の不具合、サーバーダウンなどで受付ができない」等々。保険資格情報を確認できず、いったん全額自己負担を請求するケースもあった。

 現行の健康保険証と違い、マイナ保険証の券面には加入保険の種類や被保険者番号が記されていない。カードのICチップに記録されているわけでもない。保険資格は支払基金・国保中央会が運営するデータベースと照合して確認する仕組みになっている(オンライン資格確認)。

 つまりカードリーダーの不調や故障、通信障害、停電が起きた途端、マイナ保険証は使えなくなるということだ。こうしたトラブルを回避するために、各保険組合は「資格情報のお知らせ」(前述の資格確認書とは別物)を加入者全員に配っている。弥縫策(びほうさく)とはこのことを言う。

 1月の能登半島地震では通信インフラや電力がなかなか復旧せず、マイナ保険証を使えない状態が長く続いた。河野太郎前デジタル相は「有事の安心につながる」として常時携行を推奨したが、災害時に使えないのでは意味がない。

 あらゆる個人情報が紐づいたマイナンバーカードと一体化したがゆえの問題もある。ほとんどの高齢者施設では、入居者の医療機関受診をスムーズに行うために、職員が健康保険証をまとめて預かる運用をしてきた。マイナ保険証はそうするわけにはいかない。盗難や紛失、悪用などのリスクが大きすぎるからだ。

医療費抑制の狙い

 厚労省は「マイナ保険証利用のメリット」として医療情報の共有をあげる。本人の同意があれば、過去に処方された薬や特定検診などの情報を医師や薬剤師に正しく提供することができるというのである。

 だが、マイナ保険証に紐づいているのは、医療機関が1か月分をまとめて処理する診療報酬明細書(レセプト)の情報である。タイムラグが生じるので、直近の医療情報は分らない。処方された薬をすぐに確認するなら、お薬手帳のほうがはるかに便利だ。

 このほかにも政府はマイナ保険証の利点を列挙しているが(医療費控除が簡単にできる等々)、どれも巨額の切り替えコストに見合うほどの内容ではない。ではなぜ、相当な無理をしてまでマイナ保険証(マイナンバーカード)を使わせようとしているのか。

 一つは医療費の抑制である。そもそもマイナンバー制度は「年金・福祉・医療等の社会保障給付について、真に支援を必要としている者に対し迅速かつ適切に提供」するために導入された。大量の個人データを分析し「真に支援」は要しないと国が一方的に判定した者への給付は削減するというのが狙いである。

 かつて自民党の小泉進次郎議員は「健康管理に励んできた者とそうではなく生活習慣病になった者が同じ負担で同じ治療を受けられるのはおかしい」として、IT技術を使って医療給付の格差付けをするシステムの導入を訴えていた。マイナ保険証はこれを現実化するためのツールなのだ。

 国民民主党の玉木雄一郎代表も「マイナ保険証を使わないと、医療データを活用して医療給付費を効率化できない」と述べ、現行健康保険証の廃止を「予定どおりやるべきだ」と主張した。自公政権の補完勢力という国民民主党の本質がよくわかる。


背景に資本の要請

 根本的な話をすると、政府がマイナ保険証を強制する背景には巨大企業の要請がある。マイナンバーカードに紐付けられた膨大な情報(行政機関が保有する個人情報、診療・投薬履歴、購買・利用履歴など)を商売に活用することを企業は狙っているのだ。

 マイナンバーカードの利用が現在のように低調なままだと「儲けの種」が集まらない。だから健康保険証や運転免許証の機能を持たせ(マイナ免許証の運用開始は来年3月24日)、カード使用を習慣づけようとしているのである。

   *  *  *

 「高齢者の票を得るには最適解」「愚民の票を集めるのは楽だしね」。実業家のひろゆきは立憲民主党が現行健康保険証の廃止を延期する法案を衆院に提出したことを揶揄してみせた。得意の「世代間分断」作戦だが、保険証の廃止はすべての人びとの命にかかわる問題である。ごまかされてはならない。   (M)
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