2024年12月20日 1851号
【石破政権の経済対策/「賃上げと投資」で地方経済破壊/中小支えず非正規創出】
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石破政権の経済政策が示された。総合経済対策が11月22日、その予算措置として24年度補正予算案が29日に閣議決定された。掲げるのは「賃上げと投資が牽引する成長型経済」。このベースになっているのは岸田政権の「新しい資本主義」だ。新自由主義政策が生んだ格差は拡大するばかり。「生産性の悪い中小企業」を淘汰し、労働力をより安く確保するグローバル資本の収奪の仕組みは一層露骨になっている。
「投資立国」
政府が提出した24年度補正予算案の経済対策関連経費は13・9兆円。歳出の内訳は経産省が4・4兆円と3割以上を占める。このうち2・3兆円は「投資立国の実現」の項目でくくられ、その中心は「半導体・AI等のデジタル投資」だ。
石破茂首相は首班指名後の記者会見(11/11)で「2030年度までにAI・半導体分野に10兆円以上の公的支援を行う」と述べた。今後10年間で50兆円の官民投資をめざすという。「熊本県でのTSMC半導体工場のような例を他の地域にも拡げたい」と語る石破。念頭には、北海道で建設中の国策半導体企業ラピダスがある。量産体制に至るには5兆円の投資が必要とされるのだが、民間投資は集まらず、政府は保証債や税の優遇など、誘導策を必死になって練っている。
石破は、看板政策である「地方創生2・0」を「単なる地方活性化策ではない。国全体の経済政策」と位置付けている。半導体工場のように、地域での投資案件を軸にした「地方創生」なのだ。だが、これまでの「地域開発」が繰り返してきたように、結局は地域経済の破壊が進むことは目に見えている。
熊本では、多くの農地が工場用地に変えられ、地下水の枯渇・汚染など自然環境の破壊が指摘されている。工場で雇用される人数に匹敵するほどの農業従事者が生業(なりわい)を失うことになる。利潤を追求する資本の過剰投資が地域を破壊し、さっさと引き上げてしまった例は多い。
「労働力の流動化」
石破政権は今の経済状況をどう見ているのか。総合経済対策には、「(30年間のデフレを乗り越え)名目GDPは600兆円、設備投資は100兆円をそれぞれ超え、賃金も33年ぶりの高い賃上げ率が実現」と好調ぶりを表記し、さらに前進させるのだと意気込んでいる。
日本経済は本当に好調なのか。実のところ、企業倒産は23年8690件にのぼり、前年から35%増えている(東京商工リサーチ)。今年は10月までですでに9133件。1万件を超える見込みだ。この倒産の7割は「個人+資本金1千万円未満」の小規模事業者だ。
原因の一つは、「ゼロゼロ融資」に起因する。コロナの影響で売上が減った企業に対し行われた事実上無利子・無担保の融資。無利子の期間は3年間に限られ、今年の4月が返済開始のピークを迎えていた。この融資を受けた企業の倒産が激増した。
コロナ禍以前の水準に経済が回復したとしても、負債を返す余裕はなかったということだ。さらに、インフレ、人手不足、日銀の金利引き上げ、消費税インボイス制度導入と、小規模・零細事業者にとって厳しい状況が重なった。
こうした事態を政府は避けようとしたのか。そうではない。政府の経済政策に深くかかわってきた経済学者竹中平蔵は「生産性の悪い企業から生産性の高い企業へ労働者の流動性を高める」ことを主張し続けている。つまり、自力で経営ができない中小企業が倒産することは歓迎なのである。
「労働者の流動化」とは無権利状態に置かれる非正規労働者の創出に他ならない。労働法制の解体が並行して進んでいることでも明らかだ。これは、安倍、菅、岸田の新自由主義政策に一貫したものだ。石破政権もまた同じだ。実際、人材派遣業界は活況を呈している。全国1497社の8割が黒字。新規参入が相次ぎ、過当競争状況にある(11/29東京商工リサーチ)。
「生産性向上」圧力
経済対策の具体策をみよう。3本柱の1つ「日本経済・地方経済の成長〜全ての世代の現在・将来の賃金・所得を増やす〜」。真っ先に、「中堅・中小企業における生産性の向上」と書き起こし、具体的施策には「最低賃金の引上げ」をあげる。政府が掲げた目標は「2020年代に全国平均1500円」。岸田政権の「30年代に実現目標」を前倒しするほど、重点を置いている。
最賃は24年度やっと全国平均1055円(5%アップ)になった。目標を達成するには今後、毎年7%以上の引き上げを継続する必要がある。
これに対し、資本は「到底達成不可能だというところは、混乱を招くだけだ」(10/22十倉雅和経団連会長)と冷ややかだ。これは5年で1・5倍への引き上げが、「賃上げ」要求の根拠になっては困るからだろう。あくまで賃上げは資本の側が主導権を握るということだ。その一方で「高い賃金を払える企業が残っていく」(10/18経済同友会新浪剛史代表幹事)とその「効果」に期待する発言もある。
実際、政府は中小企業が最賃引き上げを実施できるように支援をする気はない。支援策として示されたのは「相談体制を拡充する」。他には「賃上げ促進税制の周知」だけだ。
中小企業での賃上げが困難な一因に、大企業支配の下で価格転嫁ができない実態がある。これに対しては「下請けGメン」(全国330人)と「下請けかけこみ寺」(全国48か所)の調査員の連携で、不適切な発注者の情報収集、指導強化をはかるという。これで、全国330万社以上ある中小企業を支援すると言うのだから、やる気のなさが見えている。「最賃引き上げ」は看板だけで、中小企業経営に対する圧力でしかない。
結局、石破の経済政策「賃上げと投資が牽引する成長型経済」とは、資本のために新たな投資市場をつくり出すこととともに使い捨て自由の安価な労働力をつくり出すものなのだ。
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経団連は、総合政策「石破内閣に望む」とする提言(10/4)や「政治との連携強化に関する見解」(10/15)を発表している。「官民連携による戦略的な国内投資拡大」など、石破政権の総合経済対策に多くが取り込まれている。
また「企業・団体による政治寄付については、…クリーンな民間寄付の拡大をはかっていく必要がある」と書いている。石破も「企業・団体献金は悪ではない」との立場だ。「献金によって、政策がゆがめられなければいい」という石破だが、資本と石破からすれば、経済政策にまったく「ゆがみ」はないということだ。
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