2024年12月20日 1851号
【労働基準関係法制研究会たたき台/経団連提言に応え労働時間規制の解体狙う】
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今年1月から開始された厚生労働省の労働基準関係法制研究会(労基研)では、11月12日第14回会合に「議論のたたき台」が提示され、まとめの報告に向けた議論を進めることを確認した。
この「たたき台」は、経団連が1月に発表した「労使自治を軸とした労働法制に関する提言」に応えるものとなっている。提言は「労使自治を重視し、細部は当事者である労使に委ねるべき。労働時間規制のデロゲーション(原則からの逸脱、規制の適用除外)の範囲を拡大する。規制の単位を事業場から企業(本社)へ移す」というものだ。
「たたき台」には、デロゲーションという言葉は出てこない。しかし、冒頭に「一定の範囲内で、個別の企業、事業場、労働者の実情に合わせて調整が可能なものにしていくという考え方を持つことが、今後の労働基準関係法制の検討に当たっては求められる」と周到に言い換えている。
労基法逸脱で長時間労働
日本の長期間労働や過労死を生み出してきたのは、労働基準法制定時からの三六(サブロク)協定にもとづく時間外・休日労働への規制からの逸脱=デロゲーションであった。過半数組合または過半数代表者による労使協定を結ぶことで労働時間は青天井となった。
また、1987年の週40時間労働制導入以降、「変形労働時間制」「事業場外及び裁量労働におけるみなし労働時間制」「高度プロフェッショナル制度」などなし崩し的に拡大され、ほとんどは監督署への届け出がいらない労使委員会の決議で可能となっている。
いま必要なのは、こうしたデロゲーションを見直し、労働時間の原則である労働基準法32条で定める「使用者は、労働者に、休憩時間を除き1週間について40時間を超えて労働させてはならない。使用者は、1週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き1日について8時間を超えて労働させてはならない」を厳守させることである。
法違反状態はさらに悪化
現代日本の労働者は、低賃金、長時間労働、不安定雇用、深刻なジェンダー差別に苦しんでいる。今も7割近くの事業所が労働基準関係法令違反の状態にある(厚労省調査)。こうした深刻な実態を「たたき台」は改善するどころかさらに悪化させようとしている。
第1に、労働者性の判断に関する先送りだ。急増するギグワーカーやプラットフォームワーカー、フリーランスなど、労働者として保護されず社会保険の適用も受けない労働者の急増に対して、「分析・研究を深める」と先送りした。
第2は、労働基準法適用の単位の問題で、「手続きを企業単位や複数事業単位で行うことも選択肢となることを明らかにする」としている。規制単位を企業(本社)にしてしまうと、事業場ごとに締結している労使協定の効力がなくなる。労働組合の協定締結権を奪うことで弱体化を狙う。
第3に、労働時間法制について、過労死ラインを超える特別条項(実質年間960時間労働可能)の廃止や短縮の視点は全くない。
第4は、「過半数代表者」機能強化。デロゲーションを目的にした労使協定締結の当事者に「過半数代表者」を利用しようとする経団連の狙いに沿っている。
日本国憲法第27条2項は、「賃金、就業時間、休息その他の勤労条件に関する基準は、法律でこれを定める」と「労働条件法定主義」を宣言している。これは、労使=労働者と使用者の関係は、使用者が圧倒的に優位な立場に立っているため、労使に労働条件を任せておいては労働者に不利となるため、法律で労働条件の基準を定めて罰則をもって使用者に守らせるということだ。
労基法は最低基準
憲法は、経団連が望む労働条件は、労使自治を重視し、細部は当事者である労使に委ねるべき≠ニいう主張を否定しているのだ。
これを受けて労働基準法は、1条で「この法律で定める労働条件は最低のものであるから、労働関係の当事者は、この基準を理由として労働条件を低下させてはならないことはもとより、その向上を図るように努めなければならない」と定めている。それは、労働基準法の定める基準は最低基準だから、経団連が言うようにデロゲーションしてはならない。それを上回るようにせよ≠ニ命じていることを意味する。
経団連と、その意に従う労基研の御用学者と厚労省による労基法解体=原則からの逸脱、適用除外の範囲拡大を、決して許してはならない。
(12月9日)
報告書案を議論する労基研に向け「労基法の解体を許さない」「労働時間規制を強化せよ」と声をぶつける(12月10日、厚生労働省前)
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