2024年12月27日 1852号
【韓国尹大統領弾劾 職務停止に/軍による制圧狙う戒厳令を市民が粉砕/自民改憲「緊急事態」は許さない】
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韓国「戒厳令」をめぐり、尹錫悦(ユンソンニョル)大統領は弾劾訴追され、職務停止。今後、憲法裁判所で審理が行われる。弾劾が成立したのは、12月3日夜の「戒厳令宣布」直後から国会前に結集した韓国市民の力である。これに連帯し、「戒厳令宣布」と同等の権限を内閣総理大臣に与える「緊急事態条項」導入をたくらむ自民党「憲法改正」を阻止することが、日本の市民が全力を挙げなければならない課題だ。
「与党は解体せよ」
韓国の国会は12月14日、尹錫悦大統領の弾劾訴追案を可決した。与党「国民の力」議員12人が賛成したためだ。国会前で「弾劾せよ」と声を上げ続ける市民の怒りに、与党は方針変更を迫られた。決定づけたのは2度目の弾劾訴追案が提出された12日に尹が出した談話だ。
この中で尹は、4日の戒厳令解除の時に表明した「任期は与党に一任」を撤回。「最後まで闘う」と早期辞任を否定した。市民の怒りは一層高まり、与党解体要求署名は20万筆を超えるなど抗議の声は激しくなっていった。
尹談話は事実に反する言い訳が並んでいる。―300人未満の実際に武装していない兵力しか投入していない。国会機能を麻痺させるものではなく、巨大野党が自由民主主義の憲政秩序を破壊している事実を知らせるためだった―。
軍隊はどう動いたのか。「投入された軍兵力は少なくとも1191人」(12/13ハンギョレ新聞)。国会に投入された707特殊任務団197人は実弾を所持。中央選挙管理委員会などに出動した警察は実弾333発を用意していた。流血の事態を避けようと現場指揮官の判断で、実弾配布をしなかったに過ぎない。
陸軍特殊戦司令官は「大統領が電話で『早く(本会議場の)扉を破壊して中にいる人員を引きずり出せ』と言ってきた」と証言している。国会の機能停止を狙ったことは明白だ。
明らかな憲法違反
「非常戒厳」宣布について尹は「大統領の憲法上の決断であり、司法審査の対象にはならない統治行為だ」との考えを示し、「弾劾しようが(内乱罪)捜査しようが、堂々と立ち向かう」と正当性を強調している。
実際、韓国の憲法にはどう規定されているのか。
第77条第1項には「大統領は戦時・事変またはこれに準ずる国家非常事態において、兵力により軍事上あるいは公共の安寧秩序を維持する必要があるときには法律の定めるところにより戒厳を宣布することができる」と規定し、戒厳法を定めている。
2項は「戒厳は非常戒厳と警備戒厳とする」。3項は「非常戒厳」の場合は「言論・出版・集会・結社の自由」や「政府や裁判所の権限」を制限できるとしている。
しかし、尹が出した布告は「国会と地方議会、政党の活動を禁止する」と規定にない機関も対象にし、中央選挙管理事務所や放送局など10か所の掌握、政党人の拘束を軍・警察に指示していた。
尹は朝鮮民主主義人民共和国(朝鮮)に対する敵対行為を繰り返し、軍事緊張を煽ってきた。「選管が北朝鮮のハッキングを受けた」などと朝鮮脅威を強調して見せたが、「非常戒厳」を出す理由にはならない。明らかに憲法違反なのである。
民主化闘争の歴史
「戒厳令」の憲法規定は1948年の第1号(制憲憲法)からある。日本が植民地朝鮮に適用したものが残り、朝鮮戦争の時代に乱発された。87年制定の現憲法は第10号。9回に及ぶ改憲の歴史は、軍事独裁政権との民主化闘争苦闘の歴史でもある。
たとえば、80年制定の第5共和国憲法と呼ばれる第9号憲法。70年代前半、改憲運動を弾圧した独裁者朴正煕(パクチョンヒ)大統領が79年に暗殺された後、国軍保安司令官全斗煥(チョンドファン)が軍事クーデターで実権を握る。民主化運動を「戒厳令」で抑え込み、光州(クァンジュ)では軍が発砲し、学生・市民ら200人近い死者と約5000人の負傷者、400人以上の行方不明者を出した。この後、大統領に就いた全斗煥が改憲し、第9号憲法の制定にいたる。
現在の第6共和国憲法は、光州事件の真相解明や大統領直接選挙を求める民衆の闘いの高揚の中で、全斗煥の後継者、次期大統領盧泰愚(ノテウ)が「民主化宣言」の結果、生まれたものだ。全、盧の両人は後に、反乱罪で懲役刑となった。「戒厳令」規定は残ったが、80年以来、宣布されたことはなかった。
「国防軍」とセットで
日本での改憲は平和と民主主義を脅かすものとして起こされている。
自民党の改憲草案(2012年制定)には内閣総理大臣が「緊急事態」宣言を出せる規定がある。宣言が出るとどうなるか。内閣は勝手に法律をつくり、予算も使え、自治体の首長に指示ができる(国会は事後承認)。「何人も、国その他公の機関の指示に従わなければならない」ことになる。内閣総理大臣が独裁体制を敷ける。
韓国のように国会が「解除を議決」した場合、「閣議にかけて、解除しなければならない」とするが、閣議が「継続」判断する場合については触れていない。
どんな場合に宣言が出せるのか。「我が国に対する外部からの武力攻撃、内乱等による社会秩序の混乱、地震等による大規模な自然災害その他の法律で定める緊急事態」が起きた時だ。
「緊急事態条項」には「戒厳令」のような「兵力による秩序維持」の表現はない。では自衛隊が韓国軍のように市民に銃口を向ける可能性はないのか。
自民党改憲草案は自衛隊を「国防軍」と位置づけ、「公の秩序を維持する活動ができる」ことを目的に入れている。現行の自衛隊法「自衛隊の任務」に「公共の秩序の維持にあたるものとする」との規定がある。これを憲法にうたう。国防軍の最高指揮官は内閣総理大臣であることも憲法に書くことにしているのだ。
緊急事態宣言下で、内閣総理大臣が国防軍に治安出動を命じ、秩序維持のために国会などを包囲することは起こりえるのである。
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弾劾決議につながった尹の談話は自分の支持層「ニューライト」と呼ぶ極右勢力向けだったと言われている。ニューライトは「反共」を掲げ、日本の植民地支配は「近代化をもたらした」と評価し、日米韓の緊密化が必要と主張する。
物価高と実質賃金の減少、非正規労働者の拡大、自営業者の倒産が続く韓国経済の中で、政権の支持率は低迷。極右保守層を頼りに野党と対峙してきた少数与党の尹大統領が「戒厳令」を発した背景は、軍事緊張を煽るところまで自民党石破政権の置かれた状況と酷似している。決して同じ道を歩ませてはならない。一刻も早く自公を政権の座から引きずり降ろす必要がある。
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