2024年12月27日 1852号
【コラム 原発のない地球へ/いま時代を変える(12)/「100mSv(ミリシーベルト)しきい値」論は破綻している】
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小児甲状腺がんは、年間発症数が100万人に1〜2人といわれている。ところが原発事故当時、福島県内に居住していた18歳以下の子ども38万人から、13年余りで390人を超える甲状腺がん患者が見つかっている。国と東京電力は、この小児甲状腺がん多発に関して放射線被ばくとの関係を否定している。その根拠として、「100mSv(ミリシーベルト〈注〉)以下の被ばく線量では発がんリスクの増加は確認されていないというのが国際的に合意された科学的知見だ」としきい値(反応などを起こす最小値=境界)≠ェあると主張している。
「国際的に合意された科学的知見」とは、原発推進の立場であるICRP(国際放射線防護委員会)2007年勧告の「疫学的方法は、100mSvまでの線量範囲でのがんのリスクを直接明らかにする力を持たない」を指す。だが、これは当時参照できたLSS研究(広島・長崎の原爆被爆者の寿命調査)のデータ量では検出力が不足していることを言っているに過ぎず、100mSv以下の低線量被ばくに発がんリスクがないことを意味するものではない。
全国で原発事故の責任を問う各種裁判が始まってから10年経つ。その間に新しい科学的知見が明らかとなり、国と東電の主張はすでに破綻している。この点を明らかにした「311子ども甲状腺がん裁判」の原告側主張の要点を紹介したい。
米国立がん研究所のモノグラフ誌(特定のテーマに関する研究を集めた論文集)は、2020年7月に「低線量被ばくとがんリスクの疫学的研究」というテーマで6つの論文を掲載した。ハウプトマンらは、他の研究論文を踏まえて、「これらの新しい疫学研究は低線量電離放射線によるがんの過剰リスクがあることを直接支持している」と述べている。
また仏、英、米の原子力作業員30万人を対象とした70年に及ぶ追跡調査(INWORKS研究)で、累積線量0〜100mGy(ミリグレイ)および0〜50mGyの低線量域に絞った解析でも過剰相対死亡率は統計的有意に高いことが明らかになった。さらに2020年7月にICRPが公表した勧告146「大規模原子力事故における人と環境の放射線防護」には、「放射線被ばくが被ばくした集団のがん発生確率を増加させることを示す信頼できる科学的根拠がある。…現在入手可能なデータの多くは、直線しきい値なしモデルを広く支持している」と明記された。国や東電が依拠する、ICRP自身が、低線量被ばくによるがんリスクを認めているのだ。
小児甲状腺がん患者自身が立ち上がった「311子ども甲状腺がん裁判」を支援し、国と東電に責任を取らせていかなくてはならない。
(注)Sv(シーベルト)は放射線エネルギーの人体への影響を表す単位、Gy(グレイ)は放射線エネルギーの吸収線量の単位で違うものだが、ヨウ素131、セシウム134、137が放出するベータ線、ガンマ線については1mSv=1Gyとされる。 (U)
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