2025年01月03日 1853号

【韓国 弾劾デモに鳴り響くK―POP/「MZ世代の民衆歌謡」との声も/若者が作る新たなデモ文化】

 色とりどりのペンライトが打ち振られ、K―POPメロディーの大合唱が沸き起こる―。韓国の尹錫悦(ユンソンニョル)大統領の弾劾を求める市民の大集会は、K―POPアイドルの応援文化を取り入れ、大きな注目を集めた。どのような歌が歌われたのか、みていこう。

アイドル応援棒

 韓国の市民デモといえば「ろうそく集会」が有名だ。2016年10月から翌年3月にかけて、当時の朴槿恵(パククネ)大統領の退陣を求める大規模街頭行動である。主催者側の集計では延べ1600万人が参加したと言われている。この時、参加者はろうそくに灯りをつけて街頭にくり出した。

 今回の尹錫悦退陣要求行動も「ろうそく集会」と銘打っているが、8年前にはなかったグッズが主役を演じている。コンサートの必需品である応援棒だ(日本で言うペンライト)。通常の棒型から球型、箱型と型と形状は様々。参加者は自分の推しアイドルのグッズに「弾劾」のラベルを貼り付けて参加している。

 8年前のデモの際、与党「国民の力」の議員が「ろうそくはろうそく。風が吹けば消える」とデモを揶揄した。この発言への抗議としてLEDろうそくなどが使われるようになり、その流れが応援棒に引き継がれた。12月10日付のロイター通信は「市民の応援棒が従来のろうそくと置き換わり、非暴力と連帯の象徴になった」と報じた。

 ソウルの国会議事堂前や全国各地の集会でK―POPの最新曲が大音量で鳴り響いた。aespa(エスパ)の『Whiplash』やBLACKPINK(ブラックピンク)のロゼによる『APT.』のビートに合わせて「尹錫悦を弾劾せよ」と唱和する。まさにコンサート会場のノリだ。

「少女時代」のあの曲が

 とりわけ強い印象を残したのが、2007年8月に発表された「少女時代」のデビュー曲「Into The New World」である。韓国語題「タシ マンナン セゲ(まためぐり合う世界)」を省略して「タマンセ」とも呼ばれている。

 少女時代は韓国の女性アイドルグループの草分け的存在で、世界中にファンを持つ。「Into The New World」は、日本的に言うと切ない系のバラードなのだが、それがなぜプロテストソングとして歌われるようになったのか。実は歌詞に秘密がある。

 「特別な奇跡を待たないで/目の前には厳しい道/分からない未来と壁/変わらなくても諦めることはできない」「この世界で繰り返される悲しみよ、もうさよなら/たくさんの見えない道の中で/かすかな光を私は追いかけていく」

 作詞を担当したキム・ジョンベは「これからどんな困難が襲ってきても避けずに、切り抜けていこうというメッセージが込められている曲」と話す。まさにこのメッセージが、不当な抑圧と闘う者たちの心情にフィットしたのだろう。

 2016年7月、梨花(イファ)女子大の在校生・卒業生が大学当局の学部新設計画に反対して座り込み闘争を行った際、彼女たちは警官隊と対峙する恐怖を乗り越えるために、この歌を歌った。その動画がSNSで広がったことをきっかけに、様々な運動の場面で歌われるようになった。

 さらに、香港やタイの民主化運動でも「Into The New World」は歌われた。社会変革を求めるアジアの若者たちの応援歌に成長したと言ってもいい。あるネットユーザーは「タマンセは、この時代の『朝露』になったようだ」と評した(注)。

民衆歌謡と替え歌

 メディアの注目はK―POPに集まりがちだが、韓国の民主化運動・労働運動を鼓舞してきた『ニムのための行進曲』などの民衆歌謡も健在だ。かつての人気ソングが現在の情勢に合わせた歌詞で再登場したケースもある。たとえば、朴槿恵退陣要求運動の代表曲だった『これが国か』の尹錫悦バージョンだ。

 「これが国か?これが国か?/無能で無知で邪悪で恥知らずの検察独裁/操作と壟断(ろうだん)で無道徳な政権/このまま放っておけない」

 初めて参加した人でもすぐに合唱できるように、替え歌もさかんに用いられている。有名クリスマスソングを使った弾劾メドレーが、陽気なメロディーと激烈な歌詞のミスマッチがおかしくて笑える。

 12月12日付のハンギョレ新聞は「弾劾デモで『世代統合』/若者は民衆歌謡、中高年はK―POP学ぶ」と報じた。集会に参加した60代の男性は「若い人たちが先頭に立って新しいデモ文化を作っていくようで、誇らしく胸が熱くなる」と語った。民主労総の若い活動家たちは新たな民衆歌謡づくりに乗り出したという。どのような歌が生まれるのか、注目したい。

   (M)

(注)『朝露』は70〜80年代の代表的民衆歌謡。

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