2025年01月24日 1855号
【原発回帰 第7次エネルギー基本計画/投げ捨てた福島事故の反省】
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経産省が昨年12月17日に案を公表した第7次エネルギー基本計画(以下「基本計画」)は、福島原発事故の反省を完全に投げ捨て、3・11前に戻ったかのように原発「最大限活用」をうたう最悪のものとなった。
福島原発事故を受けて盛り込まれていた「原発依存度を可能な限り低減する」の表現は、安倍・菅政権でさえ福島県民・被害者「配慮」を意識せざるをえず、これまでの基本計画では残してきた。それが今回、事故以降、初めて削除された。
被害者は切り捨て
基本計画は、2040年度の電源構成目標を再生可能エネルギー4〜5割程度、原子力2割程度、火力3〜4割程度とした。福島原発事故直前の2010年における原発比率は25%。3・11前への完全回帰だ。
許しがたいのは福島原発事故に関する記述である。全文84ページの基本計画に「反省」の文字はたった8か所。しかもその「反省」が「今後も原子力を活用し続ける上では、…反省を一時たりとも忘れてはならない」(総論)「(事故の)反省に立って信頼関係を構築するためにも、(原発に関し)幅広い層を対象として理解醸成に向けた取組を強化していく」(「原子力発電・今後の課題と対応」)など、すべて再稼働に強引に結びつけられている。
「被害者」の文言はわずか2回、「被災者」に至っては1回しか登場しない。ここまで露骨な被害者切り捨て、原発推進の方針表明は3・11以降では初めてだ。
デタラメな電力需要
基本計画は、「データセンター需要、平均気温上昇、EV(電気自動車)需要」などにより、今後、電力需要が飛躍的に増大することを原発最大限活用の理由に挙げる。「将来の電力需要については増加する可能性が高い」とするが、「現時点において、将来の電力需要を精緻に予想することは困難」とみずから認める。
「十分な脱炭素電源が確保できなかったが故に、国内においてデータセンターや半導体工場などの投資機会が失われ、我が国の経済成長や産業競争力強化の機会が失われることは、決してあってはならない」(11ページ)。グローバル資本本位の基本計画であることを隠そうともせず、市民を脅して原発への同意を狙う。
そもそも経産省が主張する電力需要の増加はどこまで本当なのか。原子力市民委員会の明日香壽川(あすかじゅせん)東北大学環境科学研究科教授は「2010年から18年の間に、クラウドを介したコンピューターの仕事量は550%増加したが、世界全体のデータセンターのエネルギー消費量は6%しか増加していない」「AI(人工知能)関連処理を高効率で実行する半導体の開発が進んでおり、演算能力の向上と消費電力の削減に大きな効果を期待できる」と疑問を投げかける。経産省が主張する「電力需要激増」論は空想に過ぎない。
現実無視の「原発2割」
基本計画の「原発2割」を達成するには「既存の原発(33基)をすべて再稼働させ、運転期間も60年に延長する必要がある」(原子力資料情報室・松久保肇事務局長)。「2割」自体、非現実的な想定であり、新増設を前提とした数字というのは一致した見方だ。
新増設もハードルが高い。米国では2023〜24年に稼働したジョージア州ボーグル原発3・4号機が1基当たり2兆円の建設費を要した。着工から営業開始までの期間も20年と長い。20年後のために2兆円の巨費を投じるなど大企業でも通常なら考えられない。新増設は、初めから税金や電気料金値上げが前提の計画なのだ。市民生活へのしわ寄せや財政破綻も必至となる。
高レベル放射性廃棄物の最終処分に関しては場所も方法も決まっていない。関西電力では使用済み核燃料の中間貯蔵施設への搬入が始まっているが焼け石に水だ。原発に未来はない。
「福島の事故がなかったかのようにしている。県民の苦しみを何ら顧みないものだ」。福島原発事故被害者5団体が基本計画撤回を求め内堀雅雄福島県知事に提出した要望書だ。この声に応え、原発即時全面廃止を目指さなければならない。
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