2025年02月07日 1857号
【「殺さない権利」を求めて(5)――非暴力・無防備・非武装の平和学 前田 朗(朝鮮大学校講師)】
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2011年、国連人権理事会諮問委員会が国連宣言草案を提案し、2013年、人権理事会がこれを承認しました。草案を国連総会に持ち上げる段階になりました。コスタリカ政府とダヴィド・フェルナンデスを中心に、国際民主法律家協会(IADL)、国際友和会(IFOR)、国際人権活動日本委員会(JWCHR)などのNGOが各国政府に働きかけました。
第三世界諸国が賛成しましたが、アメリカ、EU諸国、日本が反対したためロビー活動が長期化しました。論点は、(1)平和は安保理事会の専権事項か、それとも人権理事会で決議できるか、(2)個人の権利に加えて、集団の権利を認めるか、(3)平和への権利の定義(射程、国家の義務)でした。
(1)アメリカは、国連憲章第24条を根拠に、平和は安保理事会の専権事項であると主張しました。しかし、国連憲章は安保理事会の専権としているわけではなく、国連総会が平和問題について権限を有することは多くの前例と実績があります。平和への権利に関する事項が人権理事会に帰することも否定できません。
(2)アメリカは、人権は個人のものであって、集団の人権は認められないと主張しました。しかし、1966年の2つの国際人権規約(国際自由権規約、国際社会権規約)の共通第1条は「すべての人民は、自決の権利を有する」と定めています。2007年の国連先住民族権利宣言第1条は「先住民族は、集団または個人として、国際連合憲章、世界人権宣言および国際人権法に認められたすべての人権と基本的自由の十分な享受に対する権利を有する」です。集団の人権は国際人権法では常識です。にもかかわらずアメリカは最後の最後まで譲りませんでした。
(3)アメリカは、平和への権利は明確に定義することのできない、あいまいな概念だと主張しました。平和への権利に対応する国家の義務も非常に広範であり、法的に明確にできないと主張しました。
日本政府がアメリカに追随したことは言うまでもありません。私たちは外務省に対して、「憲法前文に平和的生存権が明記されている。日本は平和への権利宣言づくりの先頭に立つべきだ」と要請しました。外務省は「平和的生存権を認めた最高裁判決はないので、認めない」と明言しました。
憲法前文に基づいて平和的生存権を認めた判決は3つです。1973年の長沼ナイキミサイル基地訴訟札幌地裁判決、2008年の自衛隊イラク派遣違憲訴訟名古屋高裁判決、2009年の同訴訟岡山地裁判決です。日本政府は、最高裁判決ではないから認めないと言うのです。憲法前文に何が書いてあろうと無視する姿勢です。
平和的生存権を認めた判決は日本以外に4つあるそうです。韓国憲法裁判所が米軍基地問題に関連して認めました。コスタリカ最高裁判決が2つ(イラク戦争関連、及び原発問題)、コロンビア最高裁判決が1つあるそうですが、詳細は不明です。 |
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