2025年02月07日 1857号

【読書室/杉並は止まらない/岸本聡子著 地平社 1600円(税込1760円)/自治の現場から築く民主主義】

 「対話の区政」「公共の再生」を掲げた著者が2022年6月杉並区長に当選して2年。本書は2年間の岸本区政を振り返るものだ。

 区長の公約「さとこビジョン」に掲げ打ち出したのは、(1)子どもの視点で子どもの育ちを支える(2)誰もが暮らしやすい地域をめざす(3)「対話」を大切にしたまちづくりを(4)豊かな環境と平和を守り文化を育てる(5)区民のいのち・くらしを大切に(6)透明性のある区政をつくる―という政策だ。

 2024年度予算でも学校給食無償化拡大やゼロカーボンシティに向けた参加型予算の実施などを盛り込み、区政を前進させている。公共を支える公務労働に関しても、ケアを担う職員・機関への支援強化、非正規公務員の給与引き上げも予算化した。また、議会は女性議員が半数を占めるようになり、役所の管理職も女性が多く登用され、ジェンダー平等が前進した。

 もちろん、少数与党、施策の継続の中で、区長交代だけで一気にすべてが変わることはない。児童館の廃止見直しを重要な公約にしながら、老朽化施設の改修、統廃合など「区立施設再編整備計画」を即座には止められず、一部児童館などの廃止条例案を自ら提案しなければならなくなった。

 支持者の住民、区議から批判も噴出した。だが、そのプロセスでも廃止後も住民との議論を重ねた。住民目線で代替案や新たな施設運営協議会を作り、要望を取り入れ、解決の道を見つけていく。著者は「ものごとはこうやって変わっていくんだ」と記す。そして2年を経て「児童館を守り育てる道筋が見えてきた」と。

 地方自治の現場での民主主義のアップデートは続く。

         (N)
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