2025年02月21日 1859号
【石破トランプ会談の思惑/共同声明「日米黄金時代」は軍拡の連携/インド太平洋で対中経済戦争協力】
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石破首相が訪米し、トランプ大統領と会談。「日米関係の新たな黄金時代」とうたう共同声明を発表した(現地2/7)。自らの政治基盤を固めたい石破は、「米国第一主義」を掲げるトランプに「対米投資1兆ドル」などの経済政策を手土産に良好な関係を印象付けることに力を注いだ。両首脳は、世界平和にとって重要なパレスチナ停戦やウクライナ停戦への方針を語らず、「自分第一主義」の姿をさらした。
「パレスチナ」発言不問
トランプが大統領就任(1/20)後、最初に会った政府首脳はイスラエルのネタニヤフ首相だった(2/4)。トランプはこの時「ガザを米国が所有し、リゾートにする」と国際法を蹂躙(じゅうりん)する犯罪的発言を行い、親イスラエルの国々からさえも厳しい批判を受けた。
その3日後に面談した石破。トランプとの緊密さをアピールする目的で臨んだ会談だ。批判的意見を述べるはずはなかった。むしろトランプ発言を助ける準備をしていた。ガザのパレスチナ人を周辺アラブ国が受け入れるべきとするトランプ発言(1/25)をアラブ諸国が拒否(2/1)すると、石破はパレスチナ人受け入れを表明(2/3衆院予算委員会)。トランプに味方したのだ。
共同声明は冒頭で、「暴力の続く混乱した世界に平和と繁栄をもたらす日米関係の新たな黄金時代を追求する決意を確認した」とうたっている。パレスチナやウクライナでの「暴力の続く世界」をなくす方針を示さない日米関係が平和をもたらすことなどありえない。
「黄金時代の日米関係」とは何なのか。共同声明は3項目に分けて書いている。第1の項目は「平和のための日米協力」。第2は「成長と繁栄をもたらす日米協力」。最後に「インド太平洋地域における日米連携」。
共同声明は事前に調整された政治文書だ。日米両政府の思惑が表明されている。順に見ていこう。
辺野古・南西諸島に言及
第1項目で見過ごせないのは、「米国は、…2027年度より後も抜本的に防衛力を強化していくとの日本のコミットメントを歓迎した」というくだりだ。「…」の部分は、日本が5年間で43兆円を投じる軍事費倍増を「好ましい傾向」と評価。そして、この後もさらなる軍拡を期待すると、米国は言っている。
だが、この項目は、日本政府の意向を反映したものとみるべきだ。
「日本は…安全を維持するうえで自らの役割を再認識した」とある。米軍と対等な自衛隊を目指してさらなる軍事費の増額を必要とする石破政権の思いである。
「地元への影響を軽減するため」と辺野古基地を持ち出し、「日本の南西諸島における二国間のプレゼンスの向上、より実践的な訓練及び演習」といかにも日本国内向けの項目を並べていることからも明らかだ。
では、トランプ政権は自国の軍事力をどうしようとしているのか。
トランプは就任演説(1/20)で「世界がこれまでに見たことがない最強の軍隊を再び構築する」と宣言した。1期目、軍事費削減傾向を反転させたトランプはあらためて軍拡を推し進めるつもりだ。30年間で半減した艦艇数の増強を指示しているという(2/5JBpress)。
対中国包囲網の合言葉になっている「自由で開かれたインド太平洋」。この海域における共同軍事演習の強化は、同盟国の艦船を寄せ集めなければ、中国の海軍力に対抗できない現実的な要請でもあるのだ。
今、軍拡の主戦場となっているのは宇宙空間とサイバー領域。日米中とも「宇宙軍」整備を進めている。共同声明には「防衛装備・技術協力」「二国間の安全保障協力を拡大」との言葉が並ぶ。日米一体化への動きは拡がっている。
日米「経済摩擦」解消
共同声明第2項目「成長と繁栄」は米国経済の課題に日本側が答えたものだ。
米国の貿易赤字は深刻だ。米商務省が発表した24年の貿易統計(2/5)によれば、貿易赤字額は1兆2千億ドル(約185兆円)を超え、過去最高額になっている。最大の相手国は中国の2954億ドルだが、日本も560億ドルで7番目だ。
石破はトランプによる追加関税を避けるための対策を周到に準備した。日本製鉄によるUSスチール買収問題について、「買収ではなく投資」と説得するとともに、トヨタ、スズキが米国内で工場を建設すると伝えた。「アラスカの液化天然ガスを買い入れる」と準備してきたトランプ対策を矢継ぎ早に話した。「対米投資1兆ドル規模を目指す」とまで言及。トランプは満足気に「投資は歓迎だ」と応えている。
今回の首脳会談を前に、トランプは日本側の具体的な提案を気にしていたという。少なくとも、日米間の経済対立は表面化せず、米国経済の「成長と繁栄」に日本が協力した形を整えたのだ。
アジア経済圏の権益争い
第3項目「インド太平洋地域における日米連携」は日米両国の関心事だ。冒頭「両首脳は、日米豪印(クアッド)、日米韓、日米豪、日米比といった多層的で共同歩調のとれた協力を推進する意図を有する」と書いている。
これは、単に軍事同盟の強化を意味しているのではない。続くフレーズは「これらの関係を通じ、第三国におけるオープンRAN展開を含む地域への質の高いインフラ投資をもたらすことができる」。経済的権益にまで踏み込んでいるのだ。
石破は会談後の共同記者会見で「インド太平洋は世界のGDPの6割を占めて、成長と活力の原動力となっている」との認識を示した。ASEAN(東南アジア諸国連合)を意識した発言だ。IMF(国際通貨基金)によれば、世界の経済成長率が3%程度であるのに対し、アジアの新興国は5%を維持すると予測している。
今、ASEANの最大の貿易相手国は中国である。米国、EU、日本と続く。トランプ1期目の対中国経済制裁が中国とASEANをより強く結びつけたのだ。米中の経済対立は両国間の貿易赤字だけの問題ではなくなっている。就任式で「米国は再び製造国になる」と宣言したトランプにとって、インド太平洋の経済圏に無関心ではいられない。
日本にとっても同じだ。共同声明にある「オープンRAN」とは、日本政府が「インフラシステム海外展開戦略2025」の中に位置づけたもので、デジタル技術活用の基盤となる5Gネットワークや光海底ケーブル、データセンターなどを「インド太平洋」の同志国に売り込もうと重点戦略にしているのだ。


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AI技術で先行していた米IT企業も、中国企業に追い抜かれる事態に至っている。権益争いにどう打ち勝つのか。対中「関税攻撃」は逆効果だった。トランプにとって残された手は「中国の脅威」を煽り、中国からの離反を誘うしかないということだ。「日米黄金時代」をめざす石破にとっても、同じことだ。
「台湾有事」や「朝鮮半島有事」は経済戦争を背景とした扇情的な言葉だが、「一人歩き」を始める可能性がある。間違っても軍事衝突をおこさせてはならない。軍縮をせまろう。
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