2025年02月21日 1859号
【トランプ「ガザ所有」発言の衝撃/国際法違反のオンパレード/住民を追い出しリゾート開発】
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トランプ米大統領が、パレスチナ自治区ガザで暮らす住民を周辺国に移住させるプランをぶち上げた。ガザは米国が長期間占領し、リゾート地として再開発するのだという。国際法を踏みにじる暴言だ。日本政府が「だんまり」を決め込むことは許されない。
「人は住めない」と主張
イスラエルの軍事攻撃によって破壊されたガザ地区について、トランプが独自の「復興構想」を発表したのは、イスラエルのネタニヤフ首相との会談後に行われた共同記者会見でのことであった(2/4)。
いわく「米国がガザを引き取る。われわれが所有する。危険な不発弾やその他の武器を責任をもって処理し、更地にして復興・開発を進める。何千何万もの雇用を生み出す経済発展を創出する。ガザは中東のリヴィエラになるだろう」
リヴィエラは地中海北岸の高級保養地のこと。つまりトランプ流の「ガザの復興」とは、米国の主導でリゾート開発を進めることなのだ。いかにもホテルやカジノ建設で財を成した不動産王らしい発想である。
ちょうど1年前、トランプの娘婿であるクシュナー元大統領上級顧問が「ガザの海沿いの不動産は非常に価値あるものになる可能性がある」と評し、住民は域外に移住させて観光地にする構想を語っていた(彼は不動産開発会社の元経営者である)。米紙ウォール・ストリート・ジャーナルによると、トランプ自身も昨年夏に行ったネタニヤフとの電話会談で「どのような種類のホテルを建てるか考えてほしい」と提案していたという。
連中の考えでは、ガザの住民は開発の邪魔になるので「ヨルダンやエジプトなどに移送し、恒久的に定住させる。移住費用は中東の豊かな国が負担しろ」ということになる。何とも厚かましい話だが、「ほかに選択肢はあるのか」とトランプは開き直った。
「今のガザはがれきの山だ。人が住む場所ではない。何十年にもわたって死と破壊の象徴だった。住民は地獄のような暮らしをしてきた。爆撃されずに幸せに暮らせるなら、彼らは大喜びで移住すると思う」
法も尊厳も無視
人倫にもとる発言とはこのことをいう。ガザを「がれきの山」にしたのはイスラエル軍だが、軍事攻撃を支持し武器を供給したのは米国だ。そして、このがれきの下には1万5千人以上の犠牲者が今も埋まっているのである。「大喜びで移住する」だなんて、よく言えたものだ。
そもそも「ガザは米国が所有」発言は国際法の基本原則をことごとく無視している。パレスチナは国連加盟国の約4分の3が国家承認しており、国連総会のオブザーバー資格を持っている。パレスチナの領土であるガザ地区を米国が所有する権限などない。
それでも占領を強行するというなら、民族自決(国際人権規約第1条)を蹂躙する暴挙である。住民の激しい抵抗を武力で排除するとなれば、「武力による威嚇又は武力の行使」を禁じた国連憲章(第2条4項)に抵触する。
米軍の派遣については、トランプは自身のSNSでの投稿(2/6)で「必要ない」と述べ、軍派遣の可能性を排除しなかった4日の発言を修正した。その一方で「ガザは戦闘が終結した段階でイスラエルによって米国へ引き渡される」と改めて主張した。要するに「ガザはイスラエル領」という認識なのだ。
1967年3月、エジプトの統治下にあったガザはイスラエル軍に制圧され、占領下に置かれた(第三次中東戦争)。同年11月に採択された国連安保理決議242号は「戦争による領土取得が認められないこと」を強調し、イスラエル軍に撤退を求めている。
昨年7月には国際司法裁判所(ICJ)が、イスラエルによるパレスチナ占領政策は国際法に違反しているという勧告的意見を出した。不法占領した土地を第3国に謙譲できるわけがない。それに被占領地域の住民の強制移動・追放は国際人道法違反である(ジュネーブ第四条約49条)。
各国は一斉に批判
法も尊厳も無視したトランプ提案に対し、反発と批判の声が一斉に上がっている。当該のガザ住民やパレスチナ自治政府は「ガザは売り物ではない」と猛反発。中東諸国も「パレスチナ人を強制退去させる試みを通じた権利の侵害を明確に拒否する」(サウジアラビア外務省)と強調した。
フランスのマクロン大統領はエジプトのシシ大統領と電話会談を行い、トランプ提案を受け入れない考えで一致した。ドイツのベーアボック外相は「ガザはパレスチナ人の土地だ」との声明を出し、民間人の追放は「国際法違反」と指摘した。国連のグテ―レス事務総長は「民族浄化はどのような形であれ、避けることが重要だ」と述べた。
一方、イスラエルの現政権は陶酔感に包まれた。ネタニヤフ首相は「注目すべき考えだ」と称賛。カッツ国防相はガザ住民の移住を促進する計画を策定するよう軍に指示を出した。連中の本音は「ユダヤ人だけの国」の樹立であり、パレスチナ人を一掃する提案は大歓迎というわけだ。
石破は「だんまり」
日本政府の対応はどうか。トランプとの初めての首脳会談の場で、石破茂首相は「ガザ所有」の件について一切語らなかった。「だんまり」によって国際法違反の暴言を追認したのである。そのくせ中国の動向については「東シナ海での力や威圧によるあらゆる現状変更の試み」に反対することで一致した(共同声明)。
絵に描いたようなダブルスタンダード(二重基準)ではないか。これではっきりしたであろう。日本政府が外交政策の柱に掲げてきた「国際社会における法の支配の強化」は自ら守る気もない大ウソだ。 (M)

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