2025年02月28日 1860号

【新・哲学世間話(44)/トランプはだれも止められないのか】

 トランプは就任以降、すでに数十の大統領令に署名した。その署名の様子をテレビで流し、まるで自分の思い一つで何でもできるかのように振舞っている。

 その映像を見た人は、「もうどうしようもない、誰も彼を止められない」と嘆くかもしれない。だが、そうではない。

 合衆国憲法や連邦法を逸脱した多くの大統領令に、裁判所が相次いで「待った」をかけているのだ。

 トランプは就任直後、合衆国のすべての対外援助を停止する大統領令に署名し、主要な対外援助機関である「国際開発局」の職員を休職扱いにする措置に出た。この大統領令に対して、2月7日、ワシントンの連邦地裁はその執行の一時停止を命じた。「国際開発局」の二つの労働組合による緊急請願を受けたものである。労働組合は「連邦法に基づき、国際開発局を合法的に解体できるのは議会だけだ」と訴え、この大統領令の連邦法違反を告発している。

 トランプは連邦政府の支出と公共サービスを大幅に削減し、公務員制度を解体しようとしている。そのため、その他の政府部門の職員に自主退職を迫ったり、公的補助金を打ち切る計画を断行しようとしている。この動きに対しても、すでにいくつかの連邦地裁が「待った」をかけている。

 また、移民を排除するためにトランプが出した「出生地主義」の廃止という大統領令も、合衆国憲法にまったく違反している。

 憲法修正第14条は、「アメリカに生まれ、また帰化したすべての人々はアメリカ合衆国の市民である」ことを明記している。それゆえ、この大統領令に対しても、2月5日、メリーランド州の連邦地裁は差し止めを命じた。同地裁の判決は、トランプの命令が「我が国の250年の出生による市民権の歴史に反する」と述べ、「連邦最高裁判所は、第14修正条項の市民権条項に対する大統領の解釈を断固として拒否している」と断じている。

 このようにトランプの命令や措置に対して申し立てられた訴訟はすでに40件余りになっていると言う。

 一人の「ならず者」によって、「法」がやすやすと破られるわけがない。そうさせてはならない。

 そもそも「法」は人民が歴史を通して獲得してきた「権利」の集積物である。だからドイツ語では「法」と「権利」は同じ言葉(Recht)なのである。

  (筆者は元大学教員)
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