2025年03月07日 1861号

【「殺さない権利」を求めて(6)――非暴力・無防備・非武装の平和学 前田 朗(朝鮮大学校講師)】

 2013〜16年、コスタリカやキューバを先頭に人権NGOが加わって、国連人権理事会諮問委員会が作成した「国連平和への権利宣言草案」を採択する運動を続けました。理事会会期毎に決議を採択して進める手順です。第三世界諸国が賛成し、毎回、3分の2以上の賛成を確保しました。アメリカ、EU諸国、日本、韓国が反対し、ロシアや中国は賛成又は棄権という姿勢でした。

 3年間の議論を牽引したのはコスタリカ大使クリスチャン・ギヨーメ・フェルナンデスと、担当官のダヴィド・フェルナンデス・プヤナでした。私たち日本グループはダヴィドを支えながら、草案採択運動を内外で繰り広げました。ダヴィドは2度来日講演するなど世界を飛び回りました。

 ところが2015年、運動が原則派と修正派に分裂しました。というのもアメリカは、平和問題は安保理事会の管轄であり、集団の権利は認められず、その定義も受け入れないと主張しました。コスタリカとキューバは、アメリカの賛成は無理でも、反対しないようにしたいと考えました。アメリカに棄権に回ってもらうために、アメリカが絶対に認めない条項を削除する方針です。宣言草案作成に最大の貢献をしたダヴィドは担当官として修正作業を余儀なくされました。コスタリカ政府方針のため、ダヴィドは修正派を代表する立場でした。師匠のカルロス・ビヤン・デュラン教授は原則派で、師弟関係に亀裂が入りました。私は、アメリカが反対しても賛成多数で押し切るべきだという原則派でした。ジュネーヴのコスタリカ政府代表部会議室で何度も協議しましたが、結局、多くの条項が順次削除されました。

(1) 平和への権利が「集団の権利」であるという定義は削除されました。

(2) 大量破壊兵器の製造・保有・移転の禁止条項も削除されました。核兵器、生物兵器、化学兵器の禁止は個別の条約があるので、宣言に明示しなくても良いとされました。2017年には核兵器禁止条約が採択されました。

(3)ピースゾーンをつくる権利条項が削除されました。市民にはピースゾーンをつくる権利があり、各国はこれを認めるという趣旨です。無防備地域宣言運動を基に、私が提案して宣言草案に書き込んだ条項でしたので、大変残念でした。

(4) 先住民族、女性、子どもなど権利侵害の結果が重大となるマイノリティの保護規定も削除されました。マイノリティ権利宣言、先住民族権利宣言、女性差別撤廃条約がありますが、武力紛争における被害の極小化のための条項です。

 2016年12月、国連総会は平和への権利宣言(A/RES/71/189)を採択しました。賛成131、反対34、棄権19。主な反対はアメリカ、EU諸国、日本。

 「すべての人は、すべての人権が促進及び保障され、並びに、発展が十分に実現されるような平和を享受する権利を有する」(第1条)。こうして平和への権利が国際法になりました。
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