2025年05月02日 1869号
【トランプ関税のもたらすもの/グローバル資本主義の「大混乱」/民主主義的社会主義への始まりに】
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トランプ米大統領が発表した関税政策≠ェ「世界経済の混乱」を招いている。石破政権は「国難」と位置づけ、米政府と関税除外の交渉に傾注している。この事態をどうとらえたらいいのか。読者の疑問に答える。
トランプ関税は何が目的なのですか
まず、トランプ関税の実態を見ておきましょう。驚きだったのは、4月2日に発表した全世界185か国・地域に対する「相互関税」。すべての国に一律10%の関税をかけ、貿易赤字に応じて独自に計算した率が10%以上となる60か国は高い方を採用。「相互」ではなく一方的なものでした。
日本の場合、2024年、米国の対日貿易赤字は684億ドル(約10兆円)。輸入総額1482億ドルの約46%になります。輸出が増え、輸入が減れば赤字は解消するので、46%の半分に相当する24%を輸入品に課税するとしました。
この関税を納めるのは米国の輸入業者です。税金を上乗せした価格で売れなければ、輸入を控えることになります。輸入額は減少しても、輸出額が増えるわけではありません。貿易赤字解消にはつながりません。
トランプ政権の言い分はこうです。米国内で製品を作った方が安くなれば、製造業を復活させ雇用を増やすことができる。「アメリカが再び物を作る場所に戻り、実質賃金が上がり、利益も上がるようになるだろう」(ナヴァロ上級顧問)。実際、米シンクタンクはトランプ1期目の関税を「米国の消費者が米国製品を買う動機を生む」(大西洋評議会)、「雇用、設備投資が改善」(政治経済研究所)と評価していました。
目的はトランプ支持層とされる製造業労働者に向けたアピールだったのです。
トランプ支持者は歓迎しているのですか
「相互関税」発表直後の世論調査では、共和党支持者の73%が賛成、民主党支持者では賛成8%と差がついていますが、トランプ支持層はとりあえず歓迎とみていいでしょう(4/9NHK国際報道2025)。
ただ、製造業を国内に呼び戻すことは一朝一夕にはできません。その一方で、直後に反応したのが金融市場でした。株、債券(国債)、為替といった金融商品の価格が急落。今回の大統領選でトランプ支持に回ったIT産業資本家、投資家から総スカン。「経済の核戦争だ。こんなことのために投票したのではない」(投資家ビル・アックマン)。大富豪イーロン・マスクはトランプ側近ながら、関税ゼロを主張しています。実際、ホワイトハウスに抗議電話が殺到。トランプは4月9日に「相互関税90日間凍結」を発表しました。
一般的に関税は国内産業を守るための政策とされています。米金融資本やIT資本は国境を越えたグローバル市場の支配をめぐりしのぎを削っているので、「保護貿易」につながる関税政策は邪魔でしかありません。製造業で利潤をあげる産業資本にしても、安い労働力を求め国外に移転していったわけで、そもそも米国における「製造業の空洞化」は、こうした新自由主義政策が生み出したのです。これを関税政策で元に戻すことなどできません。
米資本の当面の競争相手である中国。145%の関税を示されていますが、交渉に応じることなく、対抗措置としてレアアースの対米輸出禁止措置や米農産物の輸入禁止措置に言及しています。農民にとって直接的なダメージになります。
「米国消費者にとって中国製品は不可欠、中国にとって米国製品はそうでもない」と言われます。8割が中国製のiPhoneは別扱いにしました。トランプ関税を支持する層はどんどん減っていくでしょう。負けを認めないトランプは、どう「名誉ある撤退」をするか、悩んでいるところでしょう。
グローバル資本のためではないのですか
トランプ政権が資本の利益を優先する政権であることは間違いありません。
グローバル資本主義による新自由主義政策の下で、世界的に拡大してきた貧困・格差。人びとの不満や怒りは主要国で政権交代をもたらしました。
トランプは抑圧された人びとを分断し、怒りの矛先をかわすことで資本の利益を守ろうとしています。「多様性は認めない。実力主義だ」「不法移民は追放する」と声高に叫び、白人労働者が救われるかのような幻想を振りまき、「期待」させたのでした。他の国でも見られる右翼勢力が伸長する構図と同じです。
トランプは各国との「取り引き」で、中国を孤立させるつもりだったかもしれません。ところが、資本の利益を脅かしかけたとたん、抗議の嵐にあいました。金融資本は、あてにならない「効果」より、目先の利潤を失うことを恐れたといえるでしょう。
トランプは資本主義の強欲さ、「自分第一主義」を包み隠さず表しています。その一方、支持者層へのリップサービスでさえ、グローバル資本の逆鱗(げきりん)に触れることを明らかにしてくれたのです。
いま、支持者をつなぎとめようとする政策とグローバル資本の利益とが矛盾・対立すること、これが表面化していると見なければなりません。労働者・市民の闘い方次第で、資本の利益優先政策を変えていける可能性が高まっているのです。
どんな闘いが必要なのですか
世界の左翼勢力がどう見ているのか紹介します。「欧州左翼」(旧欧州左翼党)という政党がトランプの「保護主義」にも、これまでの「自由貿易」にも反対する立場から見解を出しています(MDS理論政策委員会翻訳資料グローバル・トレンドNo14)。
EUが採ろうとしている輸出主導の成長モデルは賃金抑制を基本にしているから、雇用を保証し労働者を保護する政策でなければならないと主張しています。資本を助けるための労働法規制緩和や年金民営化にも反対。国境を越えた連帯を築き、人びとと地球のニーズを守るこれまでと異なる社会の実現を訴えています。
日本政府は4月16日、米政府と交渉をはじめました。詳細は明らかではありませんが、高関税による中小企業への影響はすでに出始めています。経営と雇用を守る対策は必要なことです。
在日米軍駐留経費の負担が議題になっています。仮に、妥協して受け入れれば、ますます軍事支出を増やし、社会保障費が抑えられます。これがトランプ流の取り引きです。当然受け入れさせてはなりません。
一方、トランプは消費税還付金が日本企業の輸出促進補助金になっていると問題にしています。トヨタ自動車は23年度6千億円もの還付金を手にしました(24年9月23日付全国商工新聞)。トランプの主張を受け入れ消費税は廃止すべきです。
いずれにしても、経済的不利益を労働者・市民に転嫁させないようにしなければなりません。
米国では4月5日、トランプ政権に対する大抗議行動が50州1200か所で取り組まれました。「基本的人権を侵す政権から米国を守ろう」と立ち上がっています。
欧州左翼が言うように資本主義体制を終わらせ、新しい社会システムをつくる必要性をますます多くの人びとが実感しているのではないでしょうか。

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