2025年05月02日 1869号

【読書室/歴史的に考えること 過去と対話し、未来をつくる/宇田川幸大著 岩波ジュニア新書 990円(税込1089円)/近代日本の戦争「後」としての現在】

 歴史を無視して現在と未来は考えられない。現在の社会に対応するために、歴史的に考える方法を身に着けてほしい。著者は、この思いから本書を著した。

 戦前の日本は侵略と戦争を繰り返していた。その経緯を追うだけでは、侵略と戦争の原因は判明しない。

 日清戦争をみると、朝鮮の支配権をめぐる争いから生じ、日本の領土獲得政策によって引き起こされた。日露戦争も朝鮮の支配をめぐって起きたものだ。日清戦争を第一次朝鮮戦争、日露戦争を第二次朝鮮戦争とみれば事態の本質に近づく。

 近現代史の侵略と戦争を支えたものは何か。まず帝国主義であり、帝国主義に無批判だった圧倒的な国民の姿もそれである。

 戦争と侵略の戦前は、敗戦で少なからず見直された。だが、続いたものがある。帝国主義と植民地主義の考え方を前提に、米国が日本を同盟国としサンフランスコ平和条約が結ばれたからだ。日本は戦争責任も植民地支配も清算せず、こうした路線を歩んでいく。

 この視点から見れば、韓国との「徴用工」問題も、戦争と植民地支配という未解決の問題をうやむやにする日本政府の姿勢に根本的原因があることがわかる。

 また、目を世界に転じるとウクライナ戦争がある。ウクライナの新自由主義政策を徹底するために欧米はEUとNATO(北大西洋条約機構)への加盟を画策した。これにロシアが反発し内政危機打開も狙い侵略戦争を始めた。著者は、ロシアの主たる侵略戦争責任を断罪しつつ、新自由主義をたださなければ今後も紛争は封じ込められない、と言う。この指摘は貴重だ。

 歴史的に考えることで社会の深層に近づける。(I)
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