2025年05月09日 1870号
【長生炭鉱の水非常を歴史に刻む会 意見交換会で現地調査を求める 政府はただちに行動に移せ】
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4月22日、「長生(ちょうせい)炭鉱の水非常を歴史に刻む会」による「政府との意見交換会」が衆院第1議員会館で開かれ、多くの市民と報道機関が駆けつけた。1942年に山口県の長生炭鉱で起きた水没事故犠牲者183人の遺骨がいまだに放置されている。うち136人は朝鮮半島から強制動員された労働者だ。
「刻む会」は、これまでも日本政府をはじめとした行政に協力を呼びかけてきたが、傍観者的な態度に終始している。行政任せでは一歩も進まないと、「刻む会」では自ら資金を集め昨年ついに坑口を掘りあて潜水調査を開始した。しかし、坑内の障害物や視界の悪さから調査は難航している。
4月1日からの潜水調査で、遺体が集中していると思われる場所から近いピーヤ(排気口)からの調査に踏み出し、17日にはクレーン台船を手配して、調査の妨げとなっている危険な鉄管を取り出した。
石破答弁を武器に
4月7日の参院決算委員会で大椿ゆうこ議員(社民党)の質問に答えた石破茂首相は「そういうこと(遺骨収容)にどれだけかかるのか、国としてどういう支援を行うべきか…さらに政府の中で検討はいたしたい」「(市民の取り組みについて)尊いことだと思っています」「危険があるということを政府が承知していながら…自己責任ですからねというわけにはならない」「現場を見た方がより正確に事態が把握できる」「専門の方々同士の話し合いというものから活路が開けていく」と今までよりも踏み込んだ答弁をした。
今回の「政府との意見交換会」は、この石破答弁を踏まえて行われた。「刻む会」は、厚生労働大臣と外務大臣に対して、(1)工事への財政的支援(2)早急な現地調査(3)大臣との面会(4)追悼集会への政府関係者の出席を求めた。
追い詰められた政府
しかし、驚くべきことに、当初、厚生労働省人道調査室は石破答弁を全く無視し、「対応可能な範囲を超えている」と従来のままの答弁を繰り返した。外務省北東アジア第1課に至っては、「安全性の問題」にすり替えて、長生炭鉱の遺骨返還が2004年の日韓遺骨返還合意に合致するかどうか、DNA鑑定に必要な情報の韓国との窓口責任はどこか、については頑なに答えようとしなかった。
これに対し、国会議員と「刻む会」から、「石破答弁でステージが変わった。総理が現地調査や専門家による検討など具体的に触れている。これを踏まえてどうするか検討すべきだ」「まず現地に行ってみなければ検討は始まらない」と追及の声が上がり、政府の担当者は「検討する」と答えざるをえなかった。
意見交換会の最後に、大椿議員は「石破総理の答弁は韓国でも注目されている。強制動員したのは日本であり、韓国からの動きを待っている立場では無いはずだ。現地に行かないで何が分かるというのか。順番が違う」と強調した。
今年こそ遺骨収集へ
終了後の記者会見で「刻む会」の井上洋子共同代表は「石破総理の発言に基づいて、国が何かをし始めることを確認するのが今日の目標だったが、それを手にすることができたことが大成果だ」と胸を張った。
「刻む会」では6月18、19日に第4次の潜水調査を行い、遺骨の確認・収容に挑む。しかしそのためには障害物撤去や坑口の補強工事も必要となっている。「刻む会」ではその資金を集めるために、第3次のクラウドファンディングの呼びかけを開始した。
厚生労働省人道調査室は遺骨返還事業に年間1千万円の予算を持っている。海外での遺骨収集事業にも取り組んでおり、専門家もいるはずだ。市民任せにせず、政府としてすぐにでも行動に移すべきだ。

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