2025年05月09日 1870号
【「殺さない権利」を求めて(8)――非暴力・無防備・非武装の平和学/前田朗(朝鮮大学校講師)】
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国連平和への権利宣言草案に「ピースゾーンをつくる権利」を書き込みましたが、草案をめぐる国家間交渉のさなかに削除されてしまいました。ピースゾーンをつくる権利を書いた時に念頭にあったのは、無防備地域宣言運動とオーランド諸島(フィンランド領)でした。無防備地域宣言はジュネーヴ諸条約第一追加議定書第58条に明記された概念で、国際法上の住民保護規定です。
オーランド諸島のピースゾーンはフィンランド及び周辺各国の条約によって相互承認された地位です。最初の条約は1921年のフィンランド、スウェーデン、ドイツ、フランス、エストニア、ラトヴィアなどのオーランド諸島非武装中立化協定です。
(1)フィンランドはオーランドに軍事施設を置くことも、武器弾薬の製造・搬入・搬出も禁止されました。
(2)特別な場合に海軍が一時寄港する例外を除いて、陸海空軍の駐屯も禁止されました。
(3)オーランドは中立地帯とされ、いかなる軍事利用も禁止されました。フィンランドは、紛争の際にもオーランドを戦争の局外に置くことになりました。
1921年時点では近隣のロシア革命政府はこれを認めませんでしたが、後に1940年、フィンランド・ソ連邦条約で確認されました。オーランド諸島の非軍事化と局外中立化です。それ以来、現在まで軍隊のない平和の島となりました。
オーランド諸島と言われても、どこにあるのかすぐにわかる人は珍しいでしょう。バルト海とボスニア湾の間に点在するアーキペラーゴ(群島)がオーランド諸島です。6500もの島々から成ると言われます。総面積は1500平方キロで、沖縄県よりやや大きいことになります。この群島が100年以上、ピースゾーンとして認められ、軍隊のない島となっています。その背景は次の通りです。
(1)地政学的に見ると、バルト海に面するので、100年以上前にはロシア、イギリス、フランス、ドイツの海軍が対峙しました。19世紀にはロシア軍の要塞が建設され、クリミア戦争の際に英仏海軍が猛攻撃をして、要塞は完全破壊されました。
(2)フィンランドとスウェーデンの関係が第2の要因です。オーランド諸島はフィンランド領ですが、スウェーデンの首都ストックホルムの沖合にあります。ここにフィンランド軍基地ができると、スウェーデンに軍事的脅威となります。
(3)住民はスウェーデン語を話すスウェーデン系の人々です。フィンランド語とスウェーデン語は文法構造が異なる別言語です。住民はスウェーデン領への編入を願いました。
こうした事情から、オーランドの領有をめぐって周辺諸国に軋轢が生じかねません。フィンランド・スウェーデン間だけでは済まず、バルト海の平和を構築する必要があります。設立間もない国際連盟に紛争予防が期待されました。紛争予防策を請け負ったのが新渡戸稲造国際連盟事務次長でした。 |
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