2025年05月16日 1871号

【新たな「冷戦」構想ワン・シアター≠フ危険性/中ロ朝を敵にアジア版NATOへ/全国軍事化カネで自治破壊】

 石破政権が極めて危険なキャッチフレーズを使い出した。「ワン・シアター(一つの戦域)」。中国に対するだけでなく、ロシア、朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)を一くくりにして敵対する軍事同盟=アジア版NATO(北大西洋条約機構)へつなげようというのである。軍事優先政治を深化させる動きであり、厳しく批判しなければならない。

「中国脅威」を倍増

 「シアター(劇場)」は戦闘の舞台。一つの作戦を実行する地域(戦域)を意味する。台湾のある東シナ海、領有権争いのある南シナ海、そして朝鮮半島を「ワン・シアター(一つの戦域)」と考えると言うのである。



 3月に来日した米国防長官ヘグセスと会談した中谷防衛相が、その場でこの考えを示したと報じられた(4/15朝日)。中谷は2月にフィリピンを訪問した時、マルコス大統領に「日本とフィリピンは同じシアターで防衛を考えるべき」と伝えている。日比首脳会談(4/29)では軍事情報の共有を進めることに合意した。

 フィリピンは南シナ海にある南沙諸島の領有権をめぐり中国との軍事緊張を高めている国だ。「台湾有事」と南シナ海問題をつないで「中国脅威」を倍増させようという煽り行為≠ヘ、極めて危険だ。

軍事緊張の永続化

 首相官邸は「台湾有事の際、北朝鮮とロシアが連動して動く懸念がある」と「ワン・シアター」構想の背景を解説する(4/15朝日)。まったくの妄想と言う他はない。

 トランプ政権が国外駐留軍の縮小を口にする中で、防衛省幹部は「(中谷は)日本がインド太平洋地域を主導すべきだと考えている」と語る。その一方、「生煮えの構想」「定義すら定まっていない」と語る幹部も多い。中谷の政治的パフォーマンスの色合いは強い。だが、戦争を確実に近づける発言だ。厳しく批判しなければならない。

 韓国では大きな反発が起きている。ハンギョレ新聞は社説(4/18)で「議論さえ容認してはならない」と最大の警戒感を示している。「ワン・シアター」構想は韓国軍を台湾や南シナ海へ動員することだと指摘する。日本でいえば、自衛隊が南シナ海の領有権争いにまで介入するのかと問わねばならないということだ。

 中谷の発言は、中ロ朝の「軍事的脅威」に対抗する軍事同盟、アジア版NATOを形成したいという石破政権の願望が口に出たものだ。それは、新たな冷戦構造を作り出すものであり、軍事緊張を永続化させることを狙っているのである。

経済活動の障害物

 軍事緊張の永続化は国内政治をますます軍事優先に変えていく。

 「継戦能力向上のため」と称する弾薬庫の新設・増強。数千発のミサイルを持つ中国との戦闘に備える長距離ミサイルの大量備蓄に必要な弾薬庫が足りないと平然と言う。防衛省は今後全国で130棟の弾薬庫を増設する方針を示している。

 戦中、東洋一と言われた京都府精華町にある陸上自衛隊祝園(ほうその)弾薬支処には、航空写真で見る限り10棟の弾薬貯蔵庫(土で覆われた半地下倉庫)が確認できる。ここに新たに14棟を増設する。本州では最大規模の弾薬庫となる。



 この危険な施設のある地元精華町長は「防衛省の支援を受けてきた」と共存を強調する。軍事施設が存在する市町村は総務省の交付金(国有提供施設等所在市町村交付金)を受け取る。

 この基地交付金は基地の固定資産税に相当するもので、精華町の場合、年間約7千万円。弾薬庫は町域の6分の1を占める約470fの広大な敷地だ。交付金は1平方b当たり15円に満たない。町の固定資産税収約26億円のわずか3%弱だ。基地が撤去され、有効活用されれば税収は何倍にもなる。「基地は経済活動の障害」であることは、沖縄が証明していることだ。


給食センター7割補助

 町が言う「支援」とは、防衛省が所管する「特定防衛施設周辺整備調整交付金」と「民生安定施設整備事業補助金」のことだ。年度によってその額は大きく変動しているが、補助金は町のプロジェクトにとって大きな割合を占めている。

 たとえば、防災食育センター(給食センター)の新築事業。2021年から3年か年で総事業費約9億7千万円を要した。防衛省は7割にあたる約6億7千万円の補助金を出した。22年度からは防災保健センター(事業費4億8千万円)に着手。24年度、1億4千万円の補助金が出ている(予算書による)。

 交付金の使い勝手もよい。たとえば公園照明LED化(22年度)。事業費1614万円の9割を交付金でまかなった。交付金は基金積立もできる。額は変動するが毎年2千万円以上の積み立てがある。この基金でスクールカウンセラー配置事業(24年度約600万円)などを継続している。

 なぜ、スクールカウンセラーの配置に防衛省からの交付金をあてにしなければならないのか。給食センターの新築が防衛省丸抱えなのはなぜか。ミサイルと引き換えにしなくてもよい自治体財政を保障することが必要なはずだ。防衛省は交付金・補助金をエサに軍事施設の維持をはかっている。

戦争協力と引き換え

 自治体をカネの力で軍事協力に追い込む仕組みがもう一つある。民間空港、港湾の軍事利用をはかる「特定利用空港・港湾」指定だ。4月1日、政府は新たに3空港、5港湾を指定。空港は11、港湾は25の計36施設となった。空港・港湾へのアクセス道路の整備もできるようにした。那覇空港(国管理)や留萌(るもい)港(市管理)・釧路港(市管理)など北海道の多くの港が道路整備の対象となっている。

 「特定利用施設」の整備に今年度は約1000億円が計上された。対象となる自治体にとっては、インフラ整備にかかる別枠予算が確保できることになるが、国土交通省が仲介し、施設管理者(自治体など)と防衛省との間で利用協力を文書確認する。軍事利用への抵抗はできなくなるのだ。

   *  *  *

 「台湾有事は日本の有事」(安倍元首相)、「今日のウクライナは明日の東アジア」(岸田元首相)。石破は「ワン・シアター」でさらなる軍拡を正当化する。

 戦争につながる一切を拒否する時だ。精華町議会選挙ではミサイル貯蔵反対を掲げた新人候補が当選した。自治の主体である市民の闘いが、自治体の姿勢をただし、軍拡と同時に進む自治破壊をくいとめる力となる。
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