2025年05月30日 1872号
【コラム 原発のない地球へ/いま時代を変える(21)/佐藤栄佐久・元福島県知事死去 「知事抹殺」と東京電力】
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1988年から2006年まで18年、福島県知事を務めた佐藤栄佐久さんが3月19日、85歳で死去した。
福島県民には他県以上に佐藤姓が多い。県民同士では、それほど親しい間柄でなくても、佐藤姓の人を区別するためファーストネームで呼ぶ習慣がある。「“栄佐久さん”が知事のままで2011年までいてくれたら、あの事故は起きなかった」と多くの県民が今も言う。
こうした県民の思いには根拠がある。2002年、東京電力は、福島第二原発のシュラウドという施設でひびを発見したと発表した。原子炉を冷やすための冷却水の流れを整える重要な施設だが、後日、1997年からひびの存在はわかっていたのに4年近くもそのまま運転を続けていたことが発覚する。これを含め、東電のトラブル隠しは計16件に上った。会長、社長、相談役が辞任した。
東電の姿勢に激怒した栄佐久さんは、いったんは表明した福島原発でのプルサーマル計画容認を撤回したばかりでなく、東電管内全原発の運転も拒否。2003年4月から2006年7月まで3年3か月にわたって東電管内全原発が止まった。
だがこのとき、東電管内で停電はおろか、電力不足さえ起こらなかった。3・11後、私たちが反原発運動を進める中で、「原発が動かないと電力が不足する」と市民を脅す原発推進派に対し、「原発が止まっても電力不足は起きない」と胸を張って堂々と主張できたのは、栄佐久さんがこのときに「証明」してくれていたからである。原子力ムラ挙げての「電力不足」キャンペーンに打ち勝つことができた。
栄佐久さんは2006年、公共事業をめぐって「収賄罪」で逮捕され、県知事を辞した。裁判では懲役2年、執行猶予4年の有罪判決を受けたが、裁判所が認定した収賄額は「0円」。東電にとって目障りだった栄佐久さんを陥れ、抹殺するために検察が仕組んだ国策捜査だったとする説は、福島県民の間で広く信じられている。自身が著書『知事抹殺』を出版。避難者を追った『決断』も手がけた我孫子亘監督により映画『「知事抹殺」の真実』も制作された。
東電のトラブル隠しと闘った栄佐久さんを「0円の収賄」で起訴した検察は、あれほどの事故を起こした東電旧経営陣を不起訴にした。栄佐久さんに有罪判決を下した最高裁は、東電旧経営陣には無罪判決。検察も最高裁もどこを見て仕事をしているのか。
トラブル隠しで辞任した経営陣の1人に南直哉社長(当時)がいる。2019年5月、都内で開かれたシンポジウムで「電力不足」を理由に「原発を再稼働し、放射能は正しく恐れろ」などと主張。「福島の人の前でそれを言えるか」と詰め寄る記者に「言えます」と言い放った。自分自身を辞任に追いやったトラブル隠しなどどこ吹く風だ。電力不足が起きないことを証明してくれた栄佐久さんの遺志に報いるためにも、東電の原発などこのまま永遠に止めておけばいい。 (水樹平和)
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