2025年05月30日 1872号

【読書室/沖縄県知事 島田叡と沖縄戦/川満彰 林博史著 沖縄タイムス社 1500円(税込1650円)/県民総武装を命じた「沖縄の島守」】

 参政党の神谷宗幣(そうへい)代表が、沖縄戦に絡んで「日本軍が沖縄の人たちを殺したわけじゃない」と街頭演説で訴えた(5/10青森市内)。「ひめゆり発言」(前号8面参照)で批判された自民党の西田昌司参院議員を擁護しての発言だ。

 神谷は「本土の人間とか、日本の人たちが全国から行って沖縄を守ろうとしたのに、それを悪く言うのか」と主張。「玉砕する覚悟で兵庫県から島田さんという人が行って、避難計画を進めた」とも語った。

 神谷が言う「島田さん」とは、沖縄戦当時に県知事だった島田叡(あきら)のこと。近年、「沖縄の島守」と称賛されることが増えた人物だ。だが、島田の実像は評伝や映画とはまるで違う。彼は軍の要望に応えて「県民の総武装化」を実行し、「最後まで抵抗し、敵を殺せ」と指示し続けた。

 本書は2人の沖縄戦研究者が「島田美化論」を徹底批判した一冊である。当時の公文書・資料を提示しての検証は説得力十分だ。たとえば、島田の功績と言われる「北部疎開」である。これは「戦えない住民の棄民政策」だった。食糧不足の北部に追いやられた避難民は案の定、飢餓に見舞われ次々に倒れた。

 島田の「独創」により編成された義勇隊に至っては、法的根拠もなく住民を戦場に動員し、戦闘にまで駆り出すものであった。さらに、元警察官僚の島田は機密情報が米軍に流出することを恐れ、 「捕虜になるな」と住民に言い続けた。

 知事として「軍民一体の戦時体制」を構築した島田の美化は、現在進行中の戦争国家づくりと連動した動きである。歴史修正主義者のデマにだまされないために一読を勧める。 (O)
MDSホームページに戻る   週刊MDSトップに戻る
Copyright Weekly MDS