2025年06月06日 1873号

【軍事国債まで発行 青天井の軍拡予算/軍事優先政治が生きづらさの元凶】

 軍事費43兆円。政府は2022年に改定した軍事(安保関連)3文書の「防衛力整備計画」に基づき、軍事費2倍化5か年計画を23年度に始動した。今年度はその中間点。軍事偏重予算は社会保障や教育・医療を後退させ、社会の仕組み自体を変質させていく。このまま軍拡を進めさせていいのか。何が起きているのか改めて点検しておこう。

憲法に反する優先順位

 米国が「対テロ戦争」と称しアフガニスタンやイラクを侵略していた時期、日本の軍事費は微減していた。それが増加に転じたのは第2次安倍政権が誕生した13年。急増するのは23年。岸田政権が決めた「防衛力整備計画」で「5か年で43兆円程度とする」ことを方針としてからだ。

 政治のありかたは、税金の使い方に表れる。軍事費急増ぶりを見れば、軍事が最優先の政策となっていることに疑問の余地はない。

 だが、政府が最優先すべきことは、憲法に定めがある。「生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、…立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする」(13条)。憲法学の永山茂樹東海大学教授は「この憲法の価値秩序は覆せない制約である」と軍事最優先の政治を批判する(月刊誌『地平』6月号)。戦力不保持を前提とする憲法下では、軍事費の計上自体が違憲であることは言うまでもない。

 では、最優先されるべき幸福追求権を政府はどう扱っているのか。

 社会保障に関する予算は、「前年度当初予算における年金・医療等に係る経費に相当する額に高齢化等に伴ういわゆる自然増として6600億円を加算した額の範囲内において、要求する」(22年度概算要求基準)との方針を貫いている。「現状維持」以下にせよと言うことだ。実際、加算額は23年5600億円、24年5200億円、25年4100億円と減額が続いている。自然増さえ認めない。「国は、…社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上と増進に努めなければならない」(憲法第25条)はずが、後退させているのだ。

戦前に匹敵する急増

 25年度の軍事費8・7兆円は前年の9・5%増であり、社会保障費の1・5%増を大きく引き離している。予算規模では文教・科学振興費5・5兆円を大きく上回り、全体予算115・5兆円の7・5%、国債費や地方交付税交付金などを除いた政府一般歳出68・2兆円に対しては12・8%にもなる。予算に占める割合はどんどん大きくなっている。

 「防衛力整備計画」の最終年、27年度には約9兆円。この額はGDP2%を指標としたものだ。だがGDPはすでに約600兆円(1ドル140円換算、整備計画は1ドル108円換算)、2%を変えなければ12兆円ということになる。

 さらに、米トランプ政権は3%超への引き上げを日本に求めている。まったく根拠のないまま軍事費拡大の圧力が高まっていく。5年で2倍、10年で4倍20兆円に達する勢いだ。

 明治以来、大日本帝国が軍事費を平時に2〜5倍に引き上げた時期が3回あった。日清戦争(1894〜95年)後、日露戦争(04〜05年)後、第1次大戦(14〜18年)後。いずれも戦後に軍国主義を強めていった過程だ。今はそれに匹敵する。

 その財源の多くは増税によった。日清戦争後、営業税や砂糖消費税が新設され、日露戦争後には相続税や織物消費税が新設された。財政学者関野満夫中央大学名誉教授は、平時の軍拡が大規模な増税でなされてきたことを指摘し、「防衛費増額の必要性と具体的増税の中身をセットにして議会に提示すべき」と主張している(前出『地平』)。


戦後初の軍事増税

 では軍事費増額の必要性と増税案はどうなっているのか。

 27年度約9兆円のうち増税で賄うのは1兆円規模とし、法人税、所得税、たばこ税の増税を示している。だが、到底1兆円規模で済むわけがない。実施されれば戦後初めて恒久的軍事増税が生まれることになる。

 さらに重大なのは、この3年間で「軍事国債」が2兆円以上発行されていることだ(同上)。国債は戦争を支えた反省から、不発行が原則だ(財政法第4条)。「建設国債」など例外的に認められているに過ぎない。政府は防衛省の「施設整備」や「艦船建造」を「建設国債」だとごまかした。

 政府は43兆円の増額にもすでに動き出している。

 「国家防衛戦略」の将来の自衛隊の在り方について「政策的助言」を目的に設置された「防衛力の抜本的強化に関する有識者会議」だ。24年2月の第1回総会から25年4月まで5回の総会を開き、「増額が必要」「武器輸出を推進」「防衛産業の育成、持続可能性が必要」など、言いたい放題。座長は日本経団連名誉会長榊原定征(さだゆき)、メンバーには三菱重工会長宮永俊一や読売新聞社長山口寿一、自衛隊関係者と御用学者が名を連ねる。軍需産業を育てるために軍事費増額の声をあげる利権集団と言える。




外交努力を放棄

 軍事費の拡大はトランプ政権からの圧力だけでなく、「米軍と対等な軍隊」をめざす石破政権の政策でもある。政府は軍事費増額の必要性を言うために、いかに周辺国からの「武力攻撃」が迫っているかを言い続けている。

 しかし、ロシアとは北方領土問題の解決から平和条約締結に向けた「共同声明」(03年)にいたった時がある。朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)とは「平壌宣言」(02年)をかわし拉致問題解決や国交正常化への道筋を示していた。中国とは72年の国交回復に際し「一つの中国」を確認し、06年には「戦略的互恵関係」について合意している。軍事費をわずかでも減らしていた時期だ。

 これらの外交努力がなかったかのように、「敵対」一辺倒の「戦後最も厳しく複雑な安保環境」へと描きなおしている。「外交努力」より「軍備拡張」を優先する政治がいかに不健全であるか。政府のウクライナ支援は戦争継続支持であり、イスラエルのジェノサイド黙認は加担である。「戦争をやめろ」と言えない社会であってはならない。

 「憎悪」を煽り軍事力を振りかざすのではなく、対等互恵の関係作りに最大の努力をする必要があることを80年前の敗戦、犠牲となった数千万人の人びとの死が教えたことだったはずだ。

   *  *  *

 政府の予算編成にあたって、6月は「経済財政運営と改革の基本方針」(いわゆる「骨太の方針」)が、7月末には概算要求基準が示され、8月には各省庁の概算要求額が財務省に提出される。今年はその作業の真っただ中で参議院選挙が行なわれる。

 軍事3文書が書き換えたものは、軍事費GDP1%枠の撤廃、敵基地攻撃能力獲得、武器輸出解禁、継戦能力の確保、「台湾有事」。閣議決定という行政だけの判断で決めた3文書により、社会が大きく変えられようとしている。政治が何を優先するべきなのか。まずは軍事費削減を最大限の力で実現していこう。

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